お前のような初心者がいるか!

第87話 どういたしまして?

 時は少し遡って。

 丁度オウガとパンチョが向かい合い、決着をつけようとしていた時のこと。

 庭の中央、ブレイブマンモスの背に乗りながら采配を振るっていたメイは、オウガの到着に心をときめかせた。

(オウガ、もしかして私を助けに来てくれたの?)

 だがそんな興奮もすぐに冷める。会話こそ聞こえないものの、オウガとパンチョのやり取りを見てなんとなく、だが全てを察した。

「これヤバいやつだ……」

と。

メイはパンチョの思いになんとなく気が付いている。

メイから見て、オウガはパンチョのことを女子として意識していない。だが油断はできない。女子として意識していないからこそ、まるで同性の友達のように二人の心の距離は近い。

一度異性として意識してしまえば、二人の仲が進展するのは明白だった。

(邪魔しないと!)
(でもパンチョがかわいそう)
(それに私がこの場を離れたら……)

「あわわ……私はどうしたらいいの!」

メイの中の悪魔と天使がせめぎ合う。

その時。

メイの視界に、金色に煌めくモンスターの姿が目に入った。

「て、敵……じゃない。ヨハンさんとゼッカさん!? それに……何あの召喚獣……とんでもなく強い!?」

その黄金の昆虫は、隕石のようにパンチョの居る方へ突っ込むと、一撃で彼女を葬り去った。

(よ、ヨハンさん……もしかして私の気持ちを察して……?)

違う。

(ああ。やっぱり貴方は……ヨハン様は……神!!)

***

***

***

「ぎゃあああああああああああ!?」

時は戻り。

ヨハンが空中にてクロスを倒してしまった様子を、メイも地上から見上げていた。そして、当然のことながら混乱していた。

(あ、あれ? オウガをクロスくんと戦わせてあげるんじゃなかったっけ? なんでヨハンさんが直々にトドメを……?)

そして、混乱しているのは、メイが押さえ込んでいた他のセカンドステージの面々も同じだった。

「え、クロスくん死んだんだけど……」
「えぇ……」
「何やってんだよアイツ……」
「どうする?」
「撤退するぞ。クロスを倒したヤツに勝てる気がしねーし」
「だな。それに死ぬ無様を晒したくない」
「けど中の奴らはどうする?」
「知らねーよ!!」

庭に残っていたセカンドステージの面々は、リーダーを失った事で明らかに動揺し、浮き足立っていた。

メイは咄嗟に気持ちを切り替える。こちらもドナルドと煙条Pがやられている。そのお返しをしなければと思ったのだ。

「ブレイブマンモスと私のMPをコストに召喚獣召喚! ――モノリス!!」

幾何学的な魔法陣から、黒い壁のようなモンスターが出現する。召喚獣のコントロールを奪うスキル持つ召喚獣モノリスだ。

「ヨハンさんの力、お借りします! ――テンプテーションアイ!!」

 モノリスの眠たげな単眼が怪しく輝き、キングビートルを補足する。すると、キングビートルのコントロール権がヨハンからメイに移った。

 メイはさっそくメニューを開くと、キングビートルのスキルを確認する。そして、一番強いだろうスキルを発動する。

「――【トキシックイレイザー】!!」

 キングビートルの口から、毒々しい紫色の螺旋光線が放たれ、セカンドステージの面々を襲う。直撃した者はそのまま溶けて消え、直撃を免れた者は、トキシックイレイザー第二の効果に襲われる。

「く……毒か!?」
「俺は……麻痺もついた!?」
「ボクは呪いがあああ」
「あああ……HPがあああ!?」
「こんなところで……」

トキシックイレイザーは周囲に状態異常の毒の霧を発生させる。耐性の無い者から状態異常に感染し、徐々にHPを削られていく。そして。

ヨハンが地面に落ちてくる頃には、セカンドステージの残党は全て溶けて消えていたのだった。

***

***

***

 城の中に侵入していた残りのセカンドステージメンバーも、レンマとゼッカが無事殲滅完了。

ドナルドと煙条Pを失ったものの、ギルドクリスタルを破壊されることもなく、無事危機を乗り切った竜の雛。

そのギルドマスターヨハンは現在、小学生プレイヤーオウガの前に正座し、謝罪をしていた。最早土下座の5秒前。雰囲気だけなら某倍返しドラマのワンシーンのようである。

「あの……なんとお詫びをしたらいいのか……」

あまりのやらかしにオウガがどのような反応をするのか、チラチラと彼の姿を盗み見るヨハンだったが。

「ぷっ……あっはははははは」

オウガは吹き出すと、腹を抱えて笑い出した。その様子を見て、メイが怒る。

「ちょっとオウガ! ヨハンさんがちゃんと謝ってるのに、笑うなんて失礼でしょ!」
「いや、違うって。ギルマスを笑ってる訳じゃないって……」

オウガは笑いが治まるまで待ってから、再び口を開く。

「いやさ。アイツの悲鳴なんて初めて聞いたから、可笑しくてさ。だって『ぎゃあああ』だぜ? 『ぎゃあああ』て」
「ちょ……やめてよオウガ。いつも気取ってるクロスくんとのギャップで私まで笑っちゃうでしょ……ププ」

「……フッ。よくわからないけれど、私は許されたようね」

あははと笑う小学生組みを見て、立ち上がるヨハン。

「許すとか許さないとか無いっす。寧ろ……」

オウガは今の自分の感情を表す言葉を探しているように、少し考え込んだ。

「すっきりした……いや違うか。多分、一番は驚いたんだと思います」

オウガは今まで、このゲームでクロスを倒すため努力をしてきた。レベルを上げたり、強いプレイヤーに教えを受けたり。

しかし心のどこかで、クロスに勝てるのだろうか? という思いがあった。

 クロスとはかなり長い付き合いだ。そんな中で、オウガはクロスに勝ったことがない。それに、クロスが誰かに負けているところを見たことがなかった。だからこそ、自分がクロスに勝つイメージができないでいたのだ。

 ある意味、オウガの中でクロスは神格化されていたと言っていい。

 だが今日、オウガの中のまやかしの幻想は綺麗に消え去った。消え去って、そこに残ったのはヨハンという理不尽な力の前に屈した、自分と同じ少年の姿だったのだ。

「残り二日……多分あいつはまたやってくる。その時に勝ちます。ギルマス……今日はありがとうございました!」
「……? ええ、どういたしまして?」

ヨハンは何故オウガがここまでスッキリした顔をしているのかわからなかったが、とりあえず頷いた。

一件落着。

と言ったところで、中に居たゼッカとレンマが外へとやってきた。初日の残り時間はあと一時間。

遠征に出たコンはゆっくりとポイントを稼いではいるが、もう戻ってこられる距離ではないので、そのまま戻らず、ギリギリまで敵と戦ってポイントを稼ぐことにするらしい。

残ったメンバーで今後の相談がしたいと言うことで、庭にて作戦会議である。

1位【セカンドステージ】1140P

2位【最果ての剣】808P

3位【神聖エリュシオン教団】639P

4位【みんなランサーズ】620P

5位【GOO支援部】270P

6位【開眼Bows】220P

7位【竜の雛】218P

 最後に更新されたランキングを確認する。ポイントに変動はあるものの、ヨハンたち竜の雛は7位まで上昇。初日はまずますの戦果と言っていいだろう。

「……セカンドステージは不動の1位だね」
「けど、あの子たち手の内を晒しすぎたから……明日はわからないわよ」
「どうします? これ以上無理してポイントを稼がなくても、今日は守りを固めておくだけでいいと思うんですが」

ヨハンは考える。

7位。まずまずの順位と言っていい。だが、順位を上げれば上げるほど、ギルドクリスタルを破壊する為に下位のギルドから狙われる可能性が高くなる。

「イベントエリアからは、ここに表示されているポイントの分だけ人が減っているのよね」

一人倒すごとに1ポイント。4000人近くのプレイヤーが既に脱落していることになる。

 無限に湧くモンスターを倒すイベントとは違い、ポイントの数は有限だ。だからこそ、ギルドクリスタルを破壊され、半分のポイントになる……なんてことは絶対に避けたかった。

今日は無理せず守りを固めるべきか。

それとも、もう攻めてくるプレイヤーは居ないという事に賭けて、明日に備えてポイントを取りに行くべきか……。

「むぅ~むむむ」
「あの、ヨハンさん……私、気が付いたことがあるんですけど……」

おずおずと手を上げたのは、メイだった。

「あらメイちゃん、どうしたの?」
「はい……私たちが勝つためには、もっとポイントが必要なんですよね?」
「ええ、そうね」
「でも、ポイントを稼ぎに外へ行くと、お城の守りが薄くなって、クリスタルを壊されるリスクが上がる……だから皆さんは悩んでるんですよね?」
「賢いわメイちゃん。その通りよ」
「えへへ」

ヨハンはメイの頭を撫でる。メイは嬉しそうにしてから、庭の隅っこに放置されていた、とある召喚獣を指さした。

「だったら、あの子が使えると思うんです」
「あの子……あっ!」

メイが指さしたのは、奪ってきたのをすっかり忘れていた、キングビートルだった。

no image
第88話 一日目終幕

イベントエリア中央に配置されたアスカシティには、多くの中・小規模のギルドホームが入っている。 中小規模故に、ギルドホームにクリスタルがなく、全員が出撃することにリスクが全くないため、至る所でプレイヤー ...

続きを見る

スポンサーリンク

記事スライドショー

2023/8/9

【予定】今後の投稿予定

いよいよ8月……も半ば、明後日からお盆という時期に相成った。 前回の記事…というかコミックス3巻の発売からすでに一か月経っていると考えると時間の経過が恐ろしい。 コミックスを購入してくれた方はありがとう! この記事ではこの一か月間の間に挑戦したことと、お盆以降の予定について報告したい。 7月~8月 挑戦したこと 新作を投稿する カクヨム - 「書ける、読める、伝えられる」新しいWeb小説サイト陰に生きる最強忍者さん、ダンジョンで美少女配信者を助けてバズってしまい無事忍...https://kakuyomu ...

ReadMore

2023/7/12

【7月14日発売】お前のような初心者がいるか! コミカライズ3巻告知用ページ【告知】

各種Webサイト様で連載中のお前のような初心者がいるか!のコミックス3巻が7月14日発売ということで、お知らせです。 通販サイトなどでは予約が始まっているので、まだという方は是非! お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです 3 posted with カエレバ 楽天市場 Amazon 可愛らしく書いていただいたゼッカが目印! 内容としましては書籍版準拠で海賊王レイド後半~ドナルド登場あたりまでとなっております。 どこも面白く漫画としてまとめていただいてますので、是 ...

ReadMore

2023/4/16

【告知】引っ越しと新作がちょっといい感じの話

こんばんわ。  先日の記事で新作を投稿したとお知らせしたが、まぁ望むような結果を出せずに投稿を取りやめた。 1月末から二ヶ月間コツコツと準備してきたから相当凹んだんだけど、逆に謎のパワーが沸いてきて、その後すぐに執筆を開始。 普段は6万字~10万字のストックを作ってから投稿を開始するんだけど今回は3話分、6000文字程度で投稿を開始。 超見切り発車で完成度は微妙。さらにはストックがないから殆ど投稿5分前に書き上がったのをそのまま出荷みたいな自転車操業をしている。 ただその分、今まで考えていた「読者受け」と ...

ReadMore

no image

2023/4/12

【旧】第139話 追加メンバーたち

 メンバー募集当日の昼。集合時間の一時間前。  竜の雛のミーティングルームには、見慣れない顔が揃っていた。  対外的にメンバー募集を発表した竜の雛。希望者には軽い面接の後にギルドに加入してもらう予定だが、現メンバーの顔見知りには、特に面接もなく加入してもらうことになっている。そんな友人経由の希望者には、一般の集合時間よりも早めに集まってもらっていた。 「ヨハンさん。私の友達二人をご紹介します!」  改まってゼッカがヨハンの前に連れてきたのは二人の女子高生プレイヤーだ。  一人はヨハンもよく知る人物、元【最 ...

ReadMore

2023/4/2

【無料】小説版 お前のような初心者がいるか! が無料で読めるお話

タイトルの通り、お前のような初心者がいるか! の小説版第1巻がAmazonのキンドルアンリミテッドで無料で読めるようになったので報告したい。 前々からお話は頂いていたんだけど具体的な開始時期とかは知らなかった。 昨日寝る前に偶然発見したのでこちらでもご報告しておきたいと思う。 Kindle unlimitedを30日間無料で利用する   無料読み放題って作者は大丈夫なの? 「無料で読み放題とか大丈夫なのか?」と思われるだろうが心配ない。 というのも無料でもダウンロードされれば電子書籍が一冊買われたのと変わ ...

ReadMore

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

おすすめ記事はコチラ

1

タイトルの通り、お前のような初心者がいるか! の小説版第1巻がAmazonのキンドルアンリミテッドで無料で読めるようになったので報告したい。 前々からお話は頂いていたんだけど具体的な開始時期とかは知ら ...

2

こんばんわ。  先日の記事で新作を投稿したとお知らせしたが、まぁ望むような結果を出せずに投稿を取りやめた。 1月末から二ヶ月間コツコツと準備してきたから相当凹んだんだけど、逆に謎のパワーが沸いてきて、 ...

-お前のような初心者がいるか!