お前のような初心者がいるか!

第80話 その輝きを待っていました

 殺し合い祭りより数週間前。絶佳ぜつかの好きなラノベの新刊の発売日のこと。

「あれ、絶佳? おーい絶佳ー!」
「え、誰ですか?」

 絶佳が駅前の書店で新刊を買い、ウキウキ気分で歩いていると、去年卒業した高校の先輩と出会った。大学デビューというのか、あまりにも垢抜けていて最初は誰かわからなかった。

だが話してみれば、いつも通りの先輩だった為、ファミレスに入り、お互いの近況報告などをした。

先輩はサークルに入り、毎週のようにコンパを開き、生まれて初めて彼氏ができたと、幸せそうに語っていた。
そんな話を聞いて「先輩も元気そうで良かったです」と思っていた絶佳。だが、先輩はテーブルに置かれた、袋の中の新刊に気が付いた。

絶佳が「そういえば先輩もこのラノベ大好きだったな、もう手に入れたかな」と話を膨らませようとしていたとき。

「あー絶佳。アンタまだこんなの読んでるんだ」

と、何故か哀れむような口調でそう言ったのだ。

「え……こんなのって。先輩も大好きだったじゃないですか。考察とか、一晩中電話で語り合ったりしたじゃないですか」
「ああまぁ~でも、なんていうかー黒歴史だよね。イタかったなー当時の自分。そういうのはさ、私はもう卒業したから」
「卒業……」
「そそ。アニメとかゲームとか、子供ぽい自分は捨てて、大人になったのさ」

そして【変わった自分】を見せつけるようにポーズをとる。

「大人に……」
「そそ。絶佳も可愛いんだからさ。ラノベとかゲームとか、そういうの辞めて、もっと現実に目を向けた方がいいよ~。絶佳ならきっといい男見つかるって! 私もさ、ラノベとかグッズとか買うのやめて服とか化粧品買ってるし。私の彼氏なんて、医者の息子でね。有名大学行った甲斐があった――」

そこから先の話は覚えていない。絶佳の興味のない話題が延々と続き。

「あはは……はは」

乾いた笑いが、絶佳の口から零れた。

「先輩は幸せですか?」と聞こうとして、やめた。目の前の先輩はとても楽しそうで。少なくとも、今の自分の気持ちを正しく理解してくれるとは思えなかった。

「受験……卒業……進学……大学……就職……」

絶佳の前に広がるのは、大人になるための果てしない道。来年は三年生。今ほどゲームやアニメに時間をつぎ込むこともできなくなるだろう。

「怖いな……」

いつからか、大人になるのが怖くなった。それは環境が変わるとか、友達と離ればなれになるとか、そういう事では無い。

自分が自分でなくなってしまうことが、とても怖かった。今、大好きで大切で、輝く宝物のように思っているものが、何かくだらないガラクタのように感じてしまうのではないか。

あの先輩のように、自分もいつか、今の自分をああやって振り返るのだろうか。

VRMMOで無駄な時間を過ごしたと。

ラノベに熱中してイタかったと。

(そんな自分を捨てて良かったと。そんな風に思うことがあるのだろうか……)

「見てみてゼッカちゃん! これが私のメタルブラックドラゴンよ!」

ヨハンの声が聞こえる。ヨハンはゼッカに見せたいものがあるからと庭に呼び出すと、ヒナドラを進化させたのだ。

 現れたのは巨大なクジラにしか見えない大型のモンスター。サイボーグという凶悪な見た目をしているが、ヨハンに対しての懐き方は、ヒナドラの時とあまり変わっておらず、確かにあのヒナドラが成長した姿なのだと納得できた。

自分の顔をぎゅーと押しつけるのが親愛の証らしく、今もヨハンがそれを受けているのだが、ゼッカの目には食べられているようにしか見えなかった。

「よ、ヨハンさん、大丈夫ですか!?」
「あははははは! 凄いわ! 本物よこれ!」

そうやってはしゃぐヨハンを、ゼッカはイタいとは思わない。いい歳して……なんて思わない。
寧ろ……。

「……? 何かあったの、ゼッカちゃん?」
「え……あ、あれ?」

ゼッカの様子がおかしいことに気が付いたヨハンはそっとゼッカを抱きしめると、話を聞いた。

別に辛いことがあった訳じゃ無い。少しだけ寂しい思いをしただけだった。

だが、ゼッカは話した。起こったことと、思ったこと。
ヨハンは黙って話を聞いて、口を開く。

「私は……その先輩を凄いと思うわ。私も、ずっと捨てようと思っていたから。捨てなくちゃいけないんだと思っていたから。でも捨てられなかった。嫌いになれなかった。そんな自分を恥ずかしいんだと思ってた」

「ヨハンさん……」

「でも、それを救ってくれたのがゼッカちゃん、貴方なのよ。夢中でGOOを遊び、好きなアニメの話をするゼッカちゃんはとても輝いていてまぶしくて……素敵。私の憧れなの。だからそんな顔しないで。大丈夫よ」

ヨハンはゼッカの頭を撫でる。

「好きなことを好きだって言う。それは簡単な事じゃない。大人でも子供でも、とっても凄いことなの。だからね。その輝きを持ち続けていれば……ゼッカちゃんはきっと素敵な大人になれるわ」

「ヨハンさん……」

ゼッカは安心したように目を閉じた。

ゼッカも同じだったからだ。

GOOを遊び、好きなバチモンの話をするヨハンはとても輝いて見えて、ゼッカにとっても憧れだ。
ヨハンという憧れが。ゼッカにとって一番魅力的な大人の女性が、この道の先で待っている。

(もう……怖くない……)

だからゼッカがすることは決まっている。何かを好きでいられることを、大事にしよう。それはきっと尊くて、自分を輝かせてくれる、大事なことなのだ。

***

***

***

「ゴーファイト!!」

シエルが銃型の発射機械から思い切り紐を引っ張ると、ベイソードが発射され、地面に降りて回転を開始する。

本来ならば中央に向かって低くなっていく専用のスタジアムで戦わせる玩具だが、このGOOの世界では自由自在に移動することができる。

「――スラッシュ!!」

回転するベイソードは剣扱い。剣士スキルももちろん発動できる。放たれた剣撃がゼッカを襲うが、ゼッカはそれを余裕で回避。そして地面に手をつくと、魔法を発動させた。

「足場を崩す――アースクエイク!!」

 剣士でも覚えられる初級土属性魔法を発動すると、地面に亀裂が走る。足場を悪くしてお互いの機動力を奪うだけの魔法だが、ベイソードには致命的な筈だった。

「甘いぜ……GT!!」

GTと呼ばれたベイソードの回転力がさらに高まる。すると、竜巻のようなものを発生させ、その中から巨大なドラゴンが姿を現した。ドラゴンは細長い腕で攻撃をしか掛けてくる。

「な、なんか出てきたー!?」
「あ、あれは精霊よ! ベイソードのチップに宿った精霊の力が解放されたのよ!」
「解放されるとどうなるんですか?」
「なんか相手のベイソードを攻撃する」
「ベーコマバトルはー!?」

「行けーGT!! その女を粉砕しろー!」

ドラゴンの長い腕から手刀が繰り出される。だが、ゼッカはそれを剣で受け止めた。

「ぐっ……こんなものですか?」
「ば、馬鹿な……盾ならともかく……GTの一撃を剣で受け止めるだとおお!?」
「この一撃には魂がありません。それは貴方が相棒の事を信じていないから。一緒に居るのが恥ずかしいと思っているから。そんな半端な攻撃で私を倒そうなんて……甘い」

ゼッカが押し返す。すると、GTの本体(コマ)が体勢を崩し、大きく後退する。

「他のホビー部の方々は弱かったですが……自分の相棒を信じ、終始楽しそうに戦っていました。それだけで、とても輝いていた。格好良かった。けど貴方は違う。一番強いと言っていましたが……貴方が一番中途半端です。はっきり言って一番ダサい!!」

「言わせておけば……お前高校生だろ? 子供に何がわかる!! お前にオレのような大人の……何がわかる!! うおおおおおお」

シエルは発射機械を捨て、ストレージから剣を取り出し、ゼッカに襲いかかってきた。ゼッカがそれを受け止め、鍔迫り合いとなる。

「くそ……くそ……オレだって……オレだってえええ」
「貴方はただ、好きなものを好きと……堂々としていればいいんです。そのお手本は……道しるべになってくれる人はすぐ近くに居るはずです」

ゼッカは後ろのヨハンを見て。シエルは後ろの仲間達を見た。

「いいのか……? 俺は……。堂々としていて……いいのか?」

「ええ。日々真面目に働き、オフのときは好きな事に全身全霊。これが若者が憧れる素敵な大人です!」

「だが……気持ち悪くないか……大人が……玩具なんて……」

「そんなことを言う人は……蹴散らしてやりましょう!」

ゼッカがシエルの腹部に蹴りを入れる。シエルは吹っ飛び、剣を手放してしまう。だが。

「フッ……滅茶苦茶だ……。だが悪くない。一回りも年下の君に……大事なことを教わったよ」
「それは良かった」

シエルの表情は晴れやかだった。
憑きものが落ちたような顔で、降参のポーズをとるシエル。そして、自分の首を指さした。早くトドメを刺せということだろう。だが。

「なっ……」

ゼッカの接近を阻むように、シエルを守るように、その間合いにまだ回転を止めていなかったGTが割って入った。

「GT……お前……諦めていないのか!? オレは……俺たちはまだやれるのか?」

GTは答えない。だが。気のせいかもしれないが。回転が増したように見えた。

「このまま負けていいと思っていたが……悪いなゼッカ。負ける訳にはいかなくなったぜ。うおおおおお」

ゼッカに、GTとシエルが挑む。ゼッカはニカッと笑い、応戦する。

「その輝きを待っていました……ここからが本当の勝負!!」

その後。

30分にも渡る激闘の末。

武器をデッド・オア・アライブに換装したゼッカがグランドクロスにて勝利を収めた。

シエルとGTは満足そうに散っていった。

***

***

***

「いやーいい勝負だった」パチパチ
「おじさん泣いちゃったよ」パチパチ
「シエル殿の輝き。素晴らしかった」パチパチ

「約束です。二度とヨハンさんを引き抜こうなんて考えを起こさぬように」

ゼッカはムッとした表情で、生き残った3人のホビー部の面々に告げる。

「ああ。約束するよ。もうヨハン殿を勧誘はしない」
「それじゃ、我々はこの辺で」
「ご迷惑おかけしてすまんかった」

存外に丁寧な挨拶をして、立ち去って行く殺殺ホビー部の面々。その背中に、ヨハンが声を掛けた。

「待って」

立ち止まり、ホビー部が振り返る。

「お? ヨハン殿? お?」
「まさか、我々の仲間になりたいと?」
「そういう事ですかな?」

ニヤニヤと寄ってくるホビー部たち。ゼッカは「そんな訳ないですよ」と思い、ヨハンの言葉を待つ。

「ゼッカちゃんの三本勝負は綺麗に終わったけど……まだ攻撃された私のメタルブラックドラゴンの分のお返しが終わってないわよ?」

「え」
「ちょ」
「これヤバい感じか?」

「フラワーオブライフ……闘魂・極……」

ブツブツとバフを盛りながら、ヨハンはホビー部に近づいていく。後はもう、怯えるホビー部をヨハンが一方的に粛正するだけだった。「これはメタルブラックドラゴンの分……これはメタルブラックドラゴンの分……これはメタルブラックドラゴンの分……」と、殺戮マシーンのように敵を屠っていく。

「ふぅ。やられたらやり返す。倍返しよ」

なんて楽しそうに呟きつつ。

それを見て「やはりヨハンさんは格好良い……素敵」と思うゼッカだった。

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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