お前のような初心者がいるか!

第72話 時空転生

「スキル発動――フラワーオブライフ!」

 ヨハンは味方の魔力を三倍に引き上げるスキル……フラワーオブライフをクロノドラゴンに使用する。それを、ダークスパイダーと合体した男は笑う。

「素人か? 例えクロノドラゴンを強化しても、もうクロノドラゴンに攻撃するだけのMPは残っていないぞ」

「……勝手言ってるよ。この後お姉ちゃんのMPを分けてあげるんだよね?」
「それもいいけど……」

 ヨハンは先日【マジカルリンク】という、召喚獣に自分のMPを分け与えるスキルを入手した。それでも十分なのだが、ヨハンの最大MPはほぼ初期のまま。いくらすぐ回復するとはいえ、与えられる数値は微々たるものだ。

「クロノドラゴンにはとっておきがあるの。行くわよクロノドラゴン! 最後のスキル発動――【時空転生】!!」

 突如、天井を覆うようにいくつもの時計のような魔法陣が現れる。そしてその時計の針は、物凄いスピードで通常とは逆、左に回転していた。

「……時間が巻戻っている?」
「クロノドラゴンの能力の設定。それは失われた戦闘時間を取り戻す能力。【時空転生】はクロノドラゴンと私のHP、MP、スキルをクロノドラゴン召喚時の状態まで戻す」

「は、それがどうしたってんだ!」
「ふふ……こう言うことよ。クロノドラゴン――ジオサイドフォース!!」
「ぐるるあああああああ!!」

クロノドラゴンの口から、再び強力なエネルギー波が放たれる。

「なっ? ……ぐ――【シフトチェンジ】」

 男は咄嗟に、自分と召喚獣の位置を交換するスキル【シフトチェンジ】を発動し、遠くに居たベビーと入れ替わる。男こそ取り逃したが、ジオサイドフォースは5体のベビーを同時に葬り去った。

「ぐっ、どういうことだ?」

 男は納得がいかないといった表情。

「ジオサイドフォースは強力な分、再使用までの時間が10分かかる。MPが回復したとしても、それが何故使える?」

「あら、簡単よ。スキル【時空転生】で、クロノドラゴンは【ジオサイドフォース】を使う前の時間に戻ったから、また使えるようになった」

「……そうか、スキルも召喚時に戻すっていうのはそういう事なんだね!」

「ええ……そして、私もその恩恵を受けているわ。つまり……」

 ヨハンは再び【フラワー・オブ・ライフ】を発動。クロノドラゴンの魔力がさらに3倍となる。掛けられた強化状態は消えないので、重ね掛けができるのだ。

「さらに! クロノドラゴン……【時空転生】発動!」

「馬鹿な、また時空転生だと!! そうか、時空転生の効果で時空転生も時空転生発動前に戻っているのか……」

「そういうこと。つまり、クロノドラゴンは貴方を倒すまで、延々と【ジオサイドフォース】を打ち続ける」
「……凄い! 凄いよお姉ちゃん! まさにずっと俺のターンだね!」

「糞があああああ!!」

 やけっぱちになった男はダークスパイダーの口から大量の召喚石を吐き出させる。その召喚石はベビーを呼び出す。様々なスキルを駆使して、なんとかクロノドラゴンを打破しようとするが。

「ジオサイドフォース!」

「ジオサイドフォース!!」

「ジオサイドフォース!!!」

 時が巻戻る度にヨハンによる強化が行われ、威力を増していくジオサイドフォースの破壊力のせいで、守備に時間を取られ、攻撃に転じることができない。MPの確保もできず、男は徐々に追い詰められていく。

 さらに言えば、例えジオサイドフォースの連射を打ち破られたとしても、クロノドラゴンにはまだ切り札の【タイムメイカー】が残っている。つまり、今度はこのループコンボを抜ける為に使用したあらゆるスキルが、クロノドラゴンのものとなってしまうのだ。

必死に対応しているが、男の状況は完全に詰んでいると言っていいだろう。

「もう手持ちの召喚獣は尽きたようね……それじゃあトドメよ――ジオサイドフォース!」

17発目のジオサイドフォースがダークスパイダーと合体した男の体へと命中し、一撃でHPを削り去った。

***

***

***

「さて、あとはあの男を倒してハッピーエンドかしら?」

 ヨハンとレンマ、そしてクロノドラゴンがじりじりと距離を詰める。生き残った三人組最後の男は絶望したような表情をすると「わああああああああ」と走り去ってしまった。

「……え」
「これで終わり?」

 唖然とその背を見送る。どうやら先ほどの戦いが、このクエストの最終戦だったらしい。何か言い知れない違和感を覚えながら、ヨハンとレンマは倒れている少女の父親に駆け寄った。レンマが抱き起こすと、父親は苦しそうに呻いたあと、目を覚ました。

「私は一体なにを……そうだ。私は男達に拉致されて……ここで神を召喚する為の魔法陣を書かされていたんだ……だ、誰だか知らないが、君たちが助けてくれたのか?」

 父親の問いに、ヨハンとレンマは頷いた。

「そうか……しかし、何故私を助けてくれたんだ?」

「貴方の娘さんに頼まれたんです。お父さんを助けてと」

「はて? 私に娘なんて居ないが……一体誰が」

 ぞくりとした。

 先ほど感じた違和感が、ゆっくりとヨハンの背を冷やす。

 ヨハンの感じていた違和感。

 このクエストにおいて、これまでずっと二人を導いてきてた少女だ。

 普通、こういう時は、やっと会えた父親の元に駆け寄るのではないか? 感動の再会シーンを用意して、プレイヤーに満足感を与えてくれるのではないか?

 思えば、ヨハンが初めて違和感を覚えたのは、初日に彼女の家に行ってからだ。父親、博士の仕事道具で埋め尽くされた部屋は、残された子供が一人で生活しているという感じが全然しなかった。

 それはゲーム故のものかと思っていたが……。実際は違ったのだ。本当は、あの部屋は少女の家ではなかったのだ。

 だとすれば、この一連の事件の黒幕は……。

「あーあ。バレちゃったぁ」

 そんな声がして、二人は恐る恐る、少女が立っているであろう方を振り返る。

 少女の髪色は黒から白へ染まり、あどけなさの残っていた表情は悪魔のような笑みを浮かべていた。

「……君が黒幕だったんだね」
「うん、そうだよ」

 言うと、少女は浮かび上がって、壁に描かれた魔法陣の方へと飛んでいく。そして、懐から宝石のようなものを取り出す。それは透明なクリスタルだったが、中心が何やら輝いていていた。

「気になる? これこそが神をここに降ろすための召喚石なの。でもね、これを使うにはエネルギーが必要なの。丁度【強力な召喚獣同士の戦い三回分】くらいのね」
「なるほどね」

ヨハンはようやくこのクエストのシナリオを理解し納得すると、少女の次の行動を待つ。

少女は魔法陣の中央にその特別な召喚石をはめ込んだ。

「あわわわわ~マズいぞコレは~」

と博士が横で慌てている。それを聞いて、ヨハンは片手を上げると、少女に向かって攻撃を打ち込む。

「ブラックフレイム」

数発の黒い炎が少女に命中し爆発するが、少女は全く止まらない。ノーダメージだった。

「どうやら邪魔はできないようね」
「……うん。多分【神の召喚獣】が出てくるまでがシナリオだろうね。もしかしたら、クエストクリアで神の召喚獣が貰えるかも」
「え……? いらないわそんなの」
「……本気でいらなそうな顔しないでお姉ちゃん」

 やがて魔法陣が輝きだし、中央に黒いゲートのようなものが開く。

 そして、その中から禍々しいオーラを纏った【何か】が現れた。それを見た少女は顔を歪める。

「失敗ね……これは神の召喚獣じゃない……全く違う何かだわ」

 言いながら、少女は舌打ちした。どうやら、現れた【何か】は少女が呼ぼうとしていた【神の召喚獣】ではないらしい。

 それはヨハンにもわかっていた。何故なら、そのモンスターはヨハンのよく知るモンスターだったからだ。

 顔の上半分を覆い隠す仮面。その下の、整った顔立ちを予感させる妖艶な唇。流れる金と赤の髪。漆黒の鎧とマント。その内に秘められた美しい肉体。

「……ゲートから現れたあの召喚獣……どこかお姉ちゃんに似ている?」
「ええ。でも、少し違うわレンマちゃん。あのモンスターが私に似ているんじゃなくて。私の鎧があのモンスターに似ているのよ」

ゲートから現れたモンスターの正体。それはヨハンの鎧と能力のモデルとなったモンスター。

「あれはカオスアポカリプス。アニメバーチャルモンスターズのラスボスよ」

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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