お前のような初心者がいるか!

第32話 オチ

『ありがとう! 本当にありがとう! 貴方たちのおかげで、海賊王は完全に消滅しました!』

『【カオスアポカリプス】【マジックリングZ】がヨハンのストレージに戻りました』

 海賊王がまき散らした自分たちのアイテムをせっせと集めていたヨハンとクロノドラゴンの頭上から、そんなアナウンスが鳴り響いた。どうやらこのレイドバトルも、これで終了のようである。

「もっぎゅ」

 クロノドラゴンの声に、ヨハンは振り返る。そして、足元から消えかかっているその姿を見て、別れの時が来たのだと悟った。

「私たち、頑張ったよね?」

 一抹のさみしさを感じながら訪ねる。するとクロノドラゴンは、まるで犬の伏せのような体勢になって、その大きな顔をヨハンに押しつけた。ヨハンはクロノドラゴンの顔を抱きしめる。

「今度は、ちゃんと召喚してみせるからね。待ってて」
「もっぎゅ」
「ああでも……ピンチになったらヒナドラから進化召喚させるかも……」
「ぎゅ……」
「え、私呆れられてる!?」
「もっぎゅ、もぎゅ」

 クロノドラゴンは名残惜しそうに頬ずりすると、その姿を完全に消滅させ、召喚石に戻った。ヨハンはそれを、大事そうにストレージに戻す。

***

***

***

 ヨハンは集めたアイテムを自分たち、それ以外に分別する。そこで不思議だったのが、召喚石のみが自動で、いつの間にかストレージに戻っていたことだ。装備が戻ったときにあったアナウンスが、召喚石の時にはなかった。

「不思議ね……」

と、ヨハンが首をひねっていると。

「ヨハンさーん!」
「……お姉ちゃん!」

突如、後ろから小柄な少女と大柄なゴリラに抱きつかれるヨハン。

「ゼッカちゃん! レンマちゃん……良かった、生きてたのね!」
「いや、これゲームですから! 死んでないですから!」
「……ボクは不死身」
「うふふ、ごめんなさい。二人が負けるところを見たことが無かったから」

 ゼッカもレンマも見慣れた姿で、ヨハンは心底安心する。そして、今更ながらに勝利を実感した。話を聞いてみると、二人とも普通の待機エリアとは別のエリアで、ヨハンの戦いを見守っていたという。そして海賊王が倒されると、ゲートが出現。潜り抜けると、この場所に戻ってこられたらしい。

「まぁ、あの人が来たのはびっくりしましたけどね」

 そして二人の後ろから、パチパチと静かに拍手しながら歩いてくるコンと、少し気まずそうに歩いてくるソロ。二人とも元の装備に戻っている。

「ありがとうコンさん。貴方のお陰で勝てたわ」
「ええよ別に。久しぶりに楽しめたわ。魔王はんがクロノドラゴンを呼んだとき、心が震えてもうて……勝ち確やー! てな。いやーうちと魔王はんとゼッカちゃんとレンマちゃん、それに三刀流の友情の勝利やね」

ウキウキのコンを「この人こんなキャラだっけ?」と見つめていたレンマ。そのとき、ふと疑問に思い口を開いた。

「……えっと、一つ質問いいかな。クロノドラゴンを見たとき勝ちを確信したって言ったよね? どうして?」
「そら、クロノドラゴンの第一スキルの効果を知っとるからやね」
「……どうして知ってたの?」
「そら、うちも持っとるからやね」
「……もう一つ質問いいかな。最初にプレレフアじゃなくてクロノドラゴン召喚して来てたら勝ってたよね?」
「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

突如豹変するコン。だがすぐに泣き出す。

「えんえんしくしく。そないにいわんでも。そんなん結果論やろ? 使い慣れてへん召喚獣より、お手軽に強い召喚獣優先しただけやん」
「まぁまぁ、誰も責めてないですから」

 そんな風に盛り上がった後、アイテムをソロとコンに返す。大量に獲得したゴールドは五等分に。そして同時にドロップされた新アイテム【トランスコード】は9個。それをヨハン達で5つ。ソロが2つ。コンが2つで分けた。ヨハンが一つ使ったのを含めると、これで一人頭2つ手に入れたことになる。

「そういえば、コンさんの召喚石は?」
「それな。死んだ時には全部元に戻っとったんよ。なんのメッセージもなしや」
「私もそうだったの。どういう事かしら」
「考えられるのはですね」

ゼッカ曰く、召喚石まで奪われたのはバグだったのではないかと言うことだ。

「このトレジャーイベントは、原則アイテム持ち込み禁止。このルールは、このボスとの戦いの為にあったと思われます」
「せやね」
「……貴重なアイテムをストレージに入れたままこのレイドに参加する人が出ない為のルールだったんだね」

ゼッカはそういうことですと言うと、さらに考察を続ける。

「弓使いと召喚師という職業はそれぞれ【矢】と【召喚石】が無いと闘う事が出来ません。なので、この職業の方々は、例外的にアイテムをイベントに持ち込んでいました」
「なるほど。ゼッカはんの言いはりたい事がわこうてきたわ」

「本来なら召喚石は【この世全ての財は俺の物】で奪える対象ではなかったんだと思います。ただ、バグで奪えてしまった。だから、このレイドバトルがクリアされた瞬間にサイレントで戻したのでは」

ゼッカは最後に、あくまで仮説ですけどね……と付け加えた。

「……まぁ納得いくかな。でも、装備は? なんか死んだら勝手に返ってきたけど」

「装備は……ヨハンさん。クロノドラゴンが海賊王をボコってた時、装備ってドロップしました?」
「そういえば、してないわね」

 クロノドラゴンがもしカオスアポカリプスを吐き出させていたら、それを着てヨハンも加勢しようとは考えていた。だが、とうとう海賊王は、誰の装備もドロップせずに退場した。単に確率の問題かと思っていたが。

「ゼッカちゃんが言いたいのって……」
「ええ、このクエストが始まる時、運営のアナウンスがありました。確かに負けたら奪われた宝が無駄になると言ってましたけど……途中で奪われた装備に関しては特に言及してないんですよね。だから死んだ私たちの所に装備が返ってきたのは、仕様だったんじゃないかと」

「つまり、俺たちはてっきり糞ゲー仕掛けられたと思っていたが、運営の落ち度は召喚石まで盗られるようになってたバグだけってことか?」

「……ゼッカの考え通りなら、そうなるね。ボク達はこのレイドに挑むとき、装備やアイテム……これまでゲームで積み上げてきた全てを賭けなくてはならないと思っていたけど」
「ほんまの賭け金はこの三日間で集めたアイテムだけいうこと? んなあほな」

全員が微妙な空気に包まれる。さっきまでの盛り上がりは消えていた。

「ま、まぁあくまで私の仮説です。あんまりにも炎上してるから、レイド中に運営がサイレント修正したって可能性もありますし」
「え、炎上!? 炎上しているの?」

ヨハンが怯えると、コンは目をキランと輝かせる。

「そうや。燃えに燃えとる。まさに祭りや」

嬉しそうに笑うコンに、ゼッカは訝しげな目を向ける。

「あんまり喜ぶことじゃないと思いますけど?」
「えーなして? ええやん。燃え上がれば燃え上がるほど、運営がいい詫びアイテムをくれはるんやから」
「詫びアイテム?」

ヨハンが疑問を浮かべる。

「運営からの補償みたいなものでしょうか。主に運営の落ち度でユーザーに不利益を与えた場合、お詫びとしてアイテムを配ることがあるんですよ」

「なんやろなー。素材引換券? ポイント振り直し券? 胸が躍るわー」

『お待たせ致しました。それでは海賊王を倒したヨハンさんに、超レアアイテムを贈呈いたします!』

 その時、沈黙していた運営からのアナウンスが響き渡る。ボスに対して一番ダメージを与えたプレイヤーであるヨハンに、特別なアイテムが贈与されるのだ。

「わ、私が貰っていいのかしら!? みんなで掴んだ勝利なのに!?」

「俺は戦いにしか興味がないから、異論ないぜ」

と三刀流。

「うちは物による」

と、物によっては全力でゴネると、狩人の目をするコン。

『では気になるそのアイテムとは……【ギルドホーム引換券】でーす!』

首を傾げるヨハン。驚く4人。

「凄いな……まぁソロの俺には関係ないが」
「うちもソロやしなぁ……いらんわ」

「凄い! 凄いですよヨハンさん! しかもギルドホーム引換券が貰えるって事は、第三層では……」

『そう、第三層では、念願のギルドホーム機能が実装されまーす! さらに引換券をお持ちの方には、優先的にギルドホームを選ぶ権利が与えられるのです』

「な、何が何やら……」
「多分ギルドホームを買うのって、凄いお金が掛かると思うんです。でもヨハンはそれをタダで入手出来るんです。これってとても凄い事なんですよ」
「……うん。一番高いところを貰った方がいい」

盛り上がる4人。だが、ヨハンだけはいまいち盛り上がれないで居た。

「あの……ギルドって何?」

残り四人が盛大にずっこけた。

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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