お前のような初心者がいるか!

第19話 トレジャーイベントと禁断のイベント

 イベント当日の土曜日。

『びえええええんんん哀川せんぱあああいいいいたずげでくだざいいいいいいいいいい』

 午前中で仕事を片付け帰ろうと思っていた圭のもとに、後輩が泣きついてきた。仕方ないので間違いだらけの注文書の手直しをしてやっていると、いつの間にかその後輩の姿が消えていた。

『ごめんなさーい 長引きそうなんで先に帰りますねー! 今日彼氏とデートなんですよぉ 先輩も遅くならないようにしてくださいねーんじゃ』

と一通、LINEが届いていた。

***

「はぁはぁ……遅くなってごめんね」

 スタート地点である第一層はじまりの街に、漆黒の鎧に身を包んだヨハンが姿を現した。

「……まだギリギリセーフ」
「心配しましたヨハンさん。事故に遭ったんじゃないかって……」
「仕事が遅れちゃって……」

 なんとか合流できたことを喜んでいると、街全体にイベント開始を告げるアナウンスが流れる。

『お待たせしました! それでは只今より、第一回トレジャーイベントを開始しまーす』

「「「うおおおおおおお」」」

 その後、改めてこのイベントのルールがアナウンスされると、いよいよ、全てのプレイヤーたちは、第一層の各地へと転移させられるのだった。

 そして、ゲーム内ではあるが、今から三日間。プレイヤーたちの長い戦いが始まる。

***

 ヨハンたちが目を開くと、そこには森が広がっていた。とは言っても、一層をあまり遊ばずに第二層へと進出したヨハンには、見覚えのない土地だ。
 場所を把握しようと、ゼッカが何か見覚えのあるものが無いか周囲を観察する。地図も持ち込めないこのイベント、まずプレイヤーが行うべきは、自分がどこに居るのか把握することだろう。

「ゴブリシャーマン、プレデターワーム……多分ここ【誘惑の森】ですね」
「誘惑の森?」
「第一層で見れば、結構難易度が高い場所です。経験値がまずくてあんまり来てない場所なので、私は詳しくないですけど。期間限定の隠しイベントがたくさんあったらしいです」
「詳しいわね」
「ええ。ですが、このイベントに伴って変わっている部分もあるはず……慎重にいきましょう」

 とは言ったものの、今さら第一層の敵に苦戦することも無いだろうと、3人は早速探索を開始する。

「――召喚獣召喚、【イヌコロ】!!」

 幾何学的な魔法陣の中から、デフォルメされた犬のようなモンスターが姿を現した。

「わんわんわん」
「気合い十分ねイヌコロ。さぁ、誰が一番多くアイテムを見つけられるか、競争よ!」
「わんわんわん!!」

 ヨハンとイヌコロは駆け出した。

「……待って」
「ああ、置いていかないでくださいよ~」

「ん、待って。早速アイテムを見つけたわ」

 何もない森の道。ヨハンはその真ん中で止まる。イヌコロの持つ特性【もの拾い】を発動できるヨハン。さらにイヌコロを6体持っているので、探索能力は単純にイヌコロの6倍である。地面の光って見える場所に触れると、宝箱が出現する。

「ハイポーション1個……HPを最大値まで回復する道具ですね」
「……レアってわけじゃないけど、必要なアイテムだね」

 各職業ごとの必須アイテム以外は持ち込めない今回のルール。宝箱からも、通常のショップで販売されているようなポーションの類いが出るようになっている。

「……生産プレイをしている人を連れてきたほうが良かったかもね」

 生産職。GOOでは器用の数値を上げたり、街で職人NPCから発せられるクエストをクリアすることで得られるスキルを駆使して、様々な武器や防具を作ることができる遊び方だ。極めればトッププレイヤーのロランドが愛用するような鎧すら生産可能となるため、人気が高い遊び方だ。

「良くできてますよね。色々な職業の人が活躍できるように考えられてる」
「……まぁボクたちはボクたちのペースで楽しもうよ」

「あ、レンマちゃーん、ゼッカちゃーん! 何か盾が出てきたわー!」

 二人はいつの間にか6個目のアイテムを見つけたヨハンの呼び声に顔を見合わせて笑うと、置いていかれないように急いで走り出すのだった。

***

「誰か近づいてきますね……」

 それから一時間ほど。森の奥深くへと足を延ばしたヨハンたちは、大したレアアイテムこそ手に入れていないものの、十分なほどのポーション類を集めきった。

 そんな時、ゼッカは森の向こう側をキッと睨むと、背中から剣を引き抜いた。

 ヨハンとレンマが遅れて人が走ってくる気配を感じて身構えると、茂みの向こうから一人の女性プレイヤーが姿を現した。

「良かった……人が居たってきゃああああああああ!?」

 叫ぶのも無理はない。この女性プレイヤー、名を【カロン】。森の奥でとてつもないモンスターに遭遇し、誰か手伝ってくれるプレイヤーが居ないか走り回っていた。

 ようやくプレイヤーを見つけたと駆け寄ってみれば、そこにいたのは黒ずくめの剣士、ゴリラ、そして中央に身構える漆黒の鎧の魔王。新たなボスモンスターと遭遇したと勘違いしてしまっても不思議はなかった。

「あ、あの、助けてくれませんかっ!」
「「「え?」」」

 話を聞いてみると、どうやらこのカロンというプレイヤーは彼氏と二人でこのイベントに参加したようなのだが、スタート地点がかなり酷かったらしい。
 ダークエルフの里の真ん中だったというのだ。ダークエルフは状態異常魔法を使う強敵だ。まだレベル10程度の二人では歯が立たず、彼氏はカロンを逃がし、一人囚われてしまったのだという。

「全く、彼氏と一緒にイベントに参加するなんて……そんな浮ついた気持ちでどうするんですか?」
「ゼッカちゃん、嫉妬がダダ漏れよ」

 理不尽にキレる若者のゼッカを諭すヨハン。

「……でも、おかしい」

 レンマが疑問を口にした。

「え?」
「何がおかしいの?」

 レンマの言葉にカロンとヨハンが首を傾げる。

「レンマちゃんの言うとおり、おかしいんですよ。彼氏さん、捕まってるんですよね?」
「ええ……ほら、メニューを見て。まだ生きてるでしょう?」

 カロンが表示するのは、パーティメンバーの状態が確認できる画面だ。HPが半分程度になっているものの、その彼氏はまだ生存中だ。

「もしかして……」

 顎に手を当てて唸っていたゼッカが、何かを思い出したようだ。

「ダークエルフ、すぐに殺されずに捕らわれる……もしかしたらコレ、【ダークエルフの拷問】という隠しイベントなのかも」
「ダークエルフの拷問?」
「……聞いたことがあるよ。なんでも女性プレイヤーからの苦情が酷くて、すぐに削除されたイベントがあったって」
「拷問って……穏やかじゃないわね」
「ええ、私は実際に参加した人から聞いたことがあります。『あんな過酷なイベントは初めて体験した。私は男だったから耐えられたが、女ではまず耐えられないだろう。だから行かないほうがいい。いや、絶対行かないで』って。その削除されていた隠しイベントが復活しているのだとしたら?」

 ゼッカの言葉を聞いたカロンは顔を覆う。

「か、彼は今、どんな酷いことをされているのでしょうか! 私の……せいで」
「……いやシリアスになっているところ悪いけど……これゲームだし……」

 レンマの言いたいこともわかる。異世界ならともかく、これはVRゲーム。痛みを感じるとはいえ、それはかなりセーブされたもの。苦痛を感じるほどではない。
 そんな耐えられないほどの拷問ダメージなんてものがあるのだとしたら、すぐにサービス停止に追い込まれるだろう。

「でも、やり過ぎたから、クレーム殺到で消したんじゃないですか?」
「わ、私の彼氏が……殺されちゃう」

 カロンは最早パニック状態だ。

「とにかく、一度行ってみましょう。助けられるかもしれないわ。カロンさん、案内して頂戴」
「え、助けてくれるんですか?」
「もちろん。それに、どんなイベントなのか、気になってきたわ」

 カロンは彼氏を助けるため。ヨハン、ゼッカ、レンマの三人はレアアイテムのため、誘惑の森の奥深く、ダークエルフの里へと向かった。

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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