小説

帰省】28歳独身OLのお盆休み 2

2022年10月27日

 石丸 涼いしまる りょう。世界的に有名な画家で、哀川圭の小学生時代からの幼なじみである。
 高校卒業以降疎遠となっていた二人だが、先日、GOOで奇跡的な再会を果たした。

 その後、いつか一緒に遊ぼうと連絡先を交換していたのである。

「あら、来たのね涼ちゃん」

 ひょこりとリビングから顔だけを出した圭が、にっこりと笑う。
 どうやら先ほど圭のスマホに送られてきていた電話やメールは、涼からのものだったらしい。

「リアルで合うの本当に何年ぶりかしら? さぁ、上がって上がって」

「んじゃ遠慮なく……うおおい嫌そうな顔するな妹ちゃん。お土産もあるからさ」

「いや、妹って。私にはちゃんと名前が……」

「なぁに。圭ちゃんの妹なら、私の妹みたいなもんだ。照れるな照れるな」

「うわぁやり辛れぇこの人……」

 涼のジャイアニズムに顔を歪めながら、妹はとぼとぼとリビングに戻る。

 差し出された座布団にどかりと座った涼は、スマホとケータイをテーブルに並べつつ、TVを見て嫌そうな顔をした。

「げぇ……私のニュースじゃんこれ」

 これでも一応有名人。ニュース報道にも慣れっこなのだろう。そんな雑な反応だった。

「涼さん、新作発表会をすっぽかしたってニュースに出てましたけど、大丈夫なんすか?」

 妹が、若干雑になりつつある敬語で尋ねた。

「ああ? なんだよ妹ちゃん、ニュースなんて信じてるのか? やめとけやめとけ。ジャパニーズニュースは偏向まみれだ。金を出す奴に都合のいいように国民の意識を誘導するための洗脳装置さ。つか、マスコミなんて人間の中でもゲス中のゲスしかならないような職業だぜ? そんな奴らの言っていることを信じちゃだめだ」

「マスコミに親でも殺されたんすか?」

 そう疑うくらい、涼の言い分は偏見に満ちていた。
 偏向なのはどっちだよと思う妹だったが口に出すのはやめておいた。
 もしかしたら、以前嫌な目にあわされたことがあるのかもしれない。

「まぁ、ちゃんと完成させて帰国したなら、ニュースは間違いってことなんでしょうけど……あの」

「ん? どうした妹ちゃん?」

「さっきからケータイ、ずっと鳴っていますよ?」

 テーブルに置かれた涼の仕事用のガラケーは、さっきから止まることなく振動を続けている。
 小さな液晶には「マネージャー」と表示されていた。

「はは、もう古いからな。壊れてんだよこれ」

 言いつつ、裏側のカバーを外し、バッテリーを取り出す。横で圭が「懐かしいわねそれ」と言い「でしょー」とにこやかに笑い返す涼。

 その後、涼は巨大なキャリーバッグから【虹色のインドの像】【エリア55まんじゅう】【傷が治癒し十日は腹が膨れる謎の豆】【金色のアフリカの像】【群馬県の成人式に使われるロープ】など、世界各国で買ってきたのであろう胡散臭いお土産をテーブルに並べた。

「あらあらまぁまぁ。こんなに沢山。嬉しいわ~。あの人にも見せてあげないと」

 と言いつつ、母はそれらの品物を元妹の部屋に運んでいった。おそらく仏壇の前に並べられるのだろう。
 そしてお土産を渡し終わったところで、涼は自分のスマホを取り出し、ニヤっと笑う。まるで悪戯を思いついた子供のようなその顔に、妹は不安になると同時に、どこか懐かしい、わくわくした感情を抱いた。

「ねぇ二人とも。このゲーム、一緒にやらない?」

 差し出された画面を見てみると、何やらアプリゲームが起動中のようだった。

「バーチャルモンスター・ゲート・オーバー……?」

「そう、通称【バチモンGO】と呼ばれてる……らしい」

 バーチャルモンスター・ゲート・オーバー、通称バチモンGO。

 二ヶ月前にひっそりとサービス開始された育成型スマホゲームである。売り上げは微妙だが、知る人ぞ知るゲームとして、一部地域ではブームになっている。

「いや、ひっそりと……とか知る人ぞ知る……とか。ゲーム展開としては微妙なんじゃ……」

「とにかく、私はこのゲームがやりたくて帰国したんだ妹ちゃん! ちなみにDLとチュートリアルはタクシーで済ませてきた」

「いや、VR全盛のこの時代に今更スマホゲーなんて……」

 VRゲームが流行する昨今、若者の関心はスマホゲーにはなかった。

「えー。いーじゃんいーじゃんやろーやろー! そりゃVRゲームは凄いけど、おっさんおばさんはまだまだスマホゲー人口の方が多いんだぜ?」

「誰がおばさんだ! 私はまだ26!」

 切れる妹。

「お姉もなんとか言ってよ……ん? お姉?」

 同意を求めて姉の方を振り返った妹。だが、姉である圭は信じられないものを見るような目で妹を見つめていた。

「あなた……もしかしてバチモンGOをやってないの……?」

「えなんか怖い……ごめんて。だって知らなかったし」

 夏なのに寒気がしたのは、冷房のせいだけではないだろう。

「おっ、ということは圭ちゃんはプレイヤーなのか。流石だぜ♪」

「まぁ私なんてガチ勢と比べたらまだまだだけれど。でも、楽しく遊んでいるわ」

「何、お姉の謎の謙遜……」

 とまぁ、この流れではやるしかないかと、スマホを開きダウンロードを進める妹。スマホゲームは昔から基本無料なので、懐は痛まない。
 そしてゲームを起動し、オープニング映像を見ている内に、だんだんとテンションが上がってくる。

「へぇ、スマホゲーなんて久しぶりだけど……ちょっとワクワクしてきた」

「私たちが教えてやるから、チュートリアルは飛ばして、ガチャやろうぜガチャ」

「まぁいいですよ。私元々チュートリアルとか飛ばす派だし……」

 スマホゲーの華と言えば、やはりガチャである。早速妹も、ガチャ画面に移行した。

「へぇ、ピックアップキャラは【ファイナルクリムゾンナイト】かぁ!」

「正確には【ファイナルクリムゾンナイト】に進化できる星5【ギギドラ】がピックアップ対象ね」

「あー進化させなきゃいけないんだ。でもま、引くしかないでしょー大物キャラ」

 すっかりテンションが上がる妹。

 ゲーム開始時に貰えるジュエルの数は2800個。ガチャ一回で150個ジュエルを要求され、1500個消費することで、一回分お得な11連ガチャを回すことができる。

「よし、それじゃあ回すよ!」

11連ボタンを押す妹。若干の召喚演出が入り、バチモン、そしてアイテムが11個手に入る。

星3 高級肉
星3 クソドラ
星3 クソドラ
星3 クソドラ
星4 超高級肉
星3 プロテインX
星3 プロテインZ
星3 クソドラ
星3 クソドラ
星4 ロックボーイ
星3 クソドラ

「……」
「……」
「……なんか言えよお姉」

 沈黙する姉とその友人を恨めしげに見る妹。

「一応このロックボーイってのは当たりなんじゃないの? 星4だし」

「まぁこの中じゃ一番まとも……かしら?」

「そりゃね、他はクソしか出てないからね! ……あっ」

 煮え切らない姉に突っ込んだその時、勢い余って【単発ガチャ】ボタンを押してしまった妹。こうなってしまってはもう止められない。

 だが。

「な、何これ……!?」

 画面が虹色に輝き出す。

「こ、これは……」
「星5確定演出!?」
「本当に存在していたなんて!?」
「二人の驚き具合から凄いってことがわかった。え、確定演出!? ってことわ」

『……ギギ』

 妹の画面の中には、ヒナドラに似た、目つきの悪い赤い子竜が表示されていた。見事、ピックアップで最高レアを引き当てたのである。

「おめでとう。この子は星5だから、始めたばかりだとまだ育成できないけど、大切に育ててあげてね」

「ま、まぁ育児の片手間に? 育ててみてもいいかなーなんて」

 これも出会いの形。ギギドラにどこか運命めいたものを感じた妹は、愛おしそうにギギドラの表示されたスマホの画面を撫でた。

「いいなぁ。よし、私も引くぜ」

 横で見ていた涼が自分も星5キャラを引いてみせると拳を握る。

「ちなみに涼さんもチュートリアル終わったところなんですよね? どんなバチモン持ってるんですか?」

「こんな感じ」

「クソまみれじゃねーか!」

 表示された涼の画面には、十数体のクソドラが表示されていた。おそらく初回分のジュエルでは、妹と似たような結果に終わったのだろう。

「ってか涼さん、ジュエルがもうないじゃないですか」

「フッ。甘いな妹ちゃん。今なら一万円で5000ジュエルが無料で貰えちまうんだよ」

「へぇそれはお得……ん? んんんんん!?」

 涼の言葉に首を傾げる妹。だが涼は止まらない。

「10000ジュエルあれば出るだろ。さ、レッツガチャターイム!」

 二万円で10000ジュエルを購入し、意気揚々とガチャを開始する涼だった。

 だが。

「嘘……だろ……66連して……星4すら出ないだとぉ!?」

「くっ……見てられねぇ」

 9000ジュエルを使い66連した結果、星4バチモンすら一体も引くことができなかった。

「まだだ、まだ終わらんよ。3万追加だ!」

「なっ!?」

 凄まじい速度で3万円をぶち込む涼。余っていたジュエルと合わせ、16000まで残ジュエルが回復した。

「これで110連まで行ける。ここからが本当の勝負だ!」

……。

……。

……。

「星4はいくつか出たけど……」
「星5はゼロか……」

 結果は散々だった。

「まだだ……金はあるんや……出るまで課金したる」

 最早正気とは思えない目でジュエルをチャージしようとする涼を止める妹。

「もう見てられないよ! やめて涼さん」

「HANASE!! 私は私が稼いだ金を使いたいように使う! そこに何の問題がある!」

「駄目だ完全に正気を失っている……。お姉ちゃん、お姉ちゃんからも何か言ってあげて」

 さっきから黙っている姉に向かって助けを求める妹。すると、圭は自身のスマホ画面を見せて、

「凄い、単発で引けたわ!」

 と、ギギドラの映る画面を見せてきた。

「煽んなやっ!!」

 キレる妹。

「まぁそう焦るなよ妹ちゃん」

「いや、お願いですから焦ってくださいよ涼さん。ってなんだアンタが冷静なんだよ。え? 私の方がおかしいのこれ?」

「うむ、妹ちゃんは何もわかってない」

 幼い子供を諭すような口調で、涼は語る。

「いいかい。お金を掛ければ掛けるほど、私のギギドラの価値は上がっていく。今当てれば私のギギドラは5万円の男になるって寸法さ」

「おかしい。ちゃんと日本語で喋っているのに、この人の言っていることが何一つ理解できない」

「はっ。ここからさらにギギドラの価値を上げていくぜぇええ」

 流れるような手つきで課金。再びジュエルをチャージすると、再びガチャを回し始めた。

「いい加減認めろよっ! あんたは爆死したんだよ!!」

 だが妹の声は届かず。無常にもガチャは回転を始める。

……。

……。

……。

「も、もうこのくらいにしておこう……かな……」

 涼は6万円を使い切ったあたりで、震える声でそう呟いた。

 心が強がっていても、体が泣き出しそうだった。

 先ほどまでの威勢はどこへやら、声量も小さくなって、殆ど聞き取れないレベルである。

「高い勉強代でしたね。一応星4キャラも何体も当たりましたし、楽しむ分には問題ないでしょう。さ、嫌なことは忘れて。3人で楽しくバチモンGOをやりましょう」

 とても掛ける言葉が見つからないなか、なんとか涼を励ます妹。

 涼は弱々しく「うん……」と呟くと、よろよろと立ち上がった。

「逃げるの?」

 だがそんな涼に、声をかける女がいた。哀川母であった。

「圭ちゃんのお母さん……?」

「いいかい涼ちゃん。逃げたり諦めることは、いつだってできる。だから、歩き続けなさい」

「圭ちゃんのお母さん……いや、ママ! そうだった。ここで諦めたら、死んでいった諭吉たちに顔向けできない……私、引くね!」

 再び顔に光を宿した涼を見て、哀川母はにっこりと微笑んだ。

「ああせっかくいい感じで場が収まりそうだったのになんてことしやがるお母さん……。お、お姉……なんとか」

 再び助けを求めて姉の方を見る妹。圭は立ち上がると、再びジュエル購入ボタンを押そうとしてる友人からスマホを取り上げた。

「……?」

「ああやっぱり。6万円分課金だものね」

「圭ちゃん、何がああやっぱりなんだ?」

「バチモンGOにはね、所謂【天井システム】が設けられているのよ」

 【天井システム】とは、ガチャに設けられた上限設定のことである。一定数ガチャを回すと、確実に特定のキャラクターを入手できるシステムである。バチモンGOの場合は200連回すことで、ピックアップされているキャラを無条件で入手できるのだ。

「これでギギドラを入手できるわよ」

「よ、良かったですね涼さん」

「うん……良かった。本当に良かった……」

 ズビズビと鼻をすすりながら、ギギドラを交換する涼。

「はぁ、ゲームに6万円……もったいない」

 家計を管理する妹にとって、今目の前で繰り広げられている光景は、信じられないものだった。そんな妹の方をぽんと叩くのは、姉である圭だった。

「私もそう思う。でもね。推しを手に入れるために、時には無謀な戦いを挑まなくてはいけない時があるの」

「ふぅん? え、待って。それじゃあお姉も……」

「うん。先月に、絶対に欲しいバチモンがピックアップされてね……」

 リビングに重たい空気が流れる。

「で、どうだったの?」

「諭吉が肩組んで出ていったわ……」

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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