お前のような初心者がいるか!

第4話 また会えてうれしいわ

「バチモンイベントですね!! それなら、プレゼントボックスを開いてみてください」
「ええと……ここね!」

 ゼッカに言われたとおり、メニュー画面からプレゼントボックスを開く。すると、そこには様々なアイテムが並んでいる。
 スタートダッシュ応援キャンペーンやログインボーナスやらが並ぶ中、ヨハンの目は【バチモンコラボイベント開催記念品】に止まる。
 それをタップすると、手元に卵型のおもちゃが出現する。

「召喚獣は普通、水晶に入っているんですけど、コラボ系はコラボ元のアイテムの形をしていることが多いんですよ」
「へぇ……それは素晴らしいわね」
「細かいですよねぇ、私このゲームのこういうところ大好きで。この卵型のおもちゃも、私が生まれる前に流行ってたらしいですよって……どうしたんですかヨハンさん!? どこか痛いんですか!?」
「し、心配しないでゼッカちゃん。大丈夫、私は大丈夫よ。私の幼少期にゼッカちゃんが生まれていないという事実に思わぬダメージを食らっただけよ」

 バーチャルモンスターは20年以上前。当時流行っていた携帯型育成ゲームの流れを汲んだ育成ゲームであった。卵型のおもちゃに入っているバーチャルモンスターのお世話をすることで、モンスターは様々な姿へと進化していく。そして20年前にはバチモンを題材としたアニメも放映され、大人気を博した。実はヨハンもアニメからバチモンを知ったのだ。

「じゃあ、当時ヨハンさんもこれを持っていたんですか?」
「ああ……うん。持ってた……持ってたんだけど」
「……?」

 ヨハンの、圭の苦い記憶が蘇る。

 当時8歳だった圭は、お年玉でバーチャルモンスターを購入し、日々育成に励んでいた。
 当時の圭にとって、バチモンは宝物で、何年も遊び続けていた。
 単純なゲームであったものの、おもちゃの中で動くモンスターに本物の命を感じ、大切に育てていた。

 だが4年生に上がった頃の話だ。未だにおもちゃを卒業できない、どういうことだ? と父親に叱られ、粉々に壊されてしまったのだ。目の前で。

「別に勉強サボってたとか、そういうわけじゃないんだけどね。ごめんね。つまらないよねこんな話……ってゼッカちゃん!? どうして泣いてるの?」
「ゆ、許せないです! ヨハンさんのお父さんだろうと、私は怒ってます! 酷すぎですよ、子供の宝物を勝手に壊すなんて!」
「ゼッカちゃん……」

 ヨハンは驚いていた。初対面の自分のためにここまで悲しんでくれている少女の優しさに。そして、当時の自分はどうだったかと振り返る。きっと、彼女ほど泣いてはいなかったはずだ。それが大人になるということなんだと、それ以来、勉強やスポーツに力を入れるようになった。
 おそらく自分は、【ゲームやアニメは子供のための幼稚なモノ。小学校のうちに卒業するモノ】という価値観に縛られていた、最後の世代なのだろうとヨハンは思う。
 下の世代は、妹たちは普通に高校生や大学生になってもそういった文化に浸っているところを見てきたからだ。

 だからなんとも思っていなかったが。ヨハンは当時の自分の代わりに泣いてくれている少女を宥めると、一言「ありがとうね」と伝えた。するとゼッカは泣き止んで、今度は満面の笑みを浮かべる。

「これ、きっと運命ですよ! 20年の時を超えて、ヨハンさんの相棒がGOO(ジェネシスオメガオンラインの略称)に復活したんです!」
「ちょっと大げさな気がするわ……」
「大げさなんかじゃありません。ああ、そんなエピソードを聞いたら、私までわくわくしてきちゃいました。ヨハンさん、早速召喚しましょう」
「えっ、ここで召喚ってできるの?」
「できます! 戦いはできないけど、喚び出すだけならできるんです!」

 ゼッカは興奮した様子で召喚獣の使い方を教えてくれる。どうやらボタンを押して台詞を言うだけでいいらしい。

「召喚獣召喚! ――現れよ【ヒナドラ】!!」

 ヨハンの台詞に反応し、初級召喚術のスキルが発動する。地面に幾何学的な魔法陣が浮かび上がると、その中から小さなモンスターが出現した。

「もっきゅ」

 竜の頭部をデフォルメしたような姿をした魔物が姿を現す。黒い体表と丸っこい白い角を持つそのモンスターの姿は、ヨハンのよく知るものだった。

「ほ、本物みたいだわ……」

 ヨハンは思わず抱き上げる。ヒナドラはくすぐったそうに「もきゅ」と鳴く。その姿はアニメで見た姿と全くそっくりで、そして子供の頃に夢想した姿とそっくりだった。遠い昔。子供の頃に自ら捨ててしまった、何か大事なものが、ヨハンの中で蘇っていく。

「久しぶりの再会ですね」

 ゼッカの台詞にうんと頷くと、ヨハンはヒナドラに顔を埋める。それは涙を隠すため。そして、誰にも聞かれないようにそっと呟いた。

「あの時、守ってあげられなくてごめんね」
「もきゅ?」
「なんでもない……また会えてうれしいわ」

 涙が収まるまで、ヨハンはしばらくヒナドラを抱きしめていた。


「……~~というわけなんですよ」
「なるほど……」

 ゼッカの教えで、ヨハンはバチモンコラボイベントの概要を完全に把握した。
 メニューからイベント専用エリアにワープし、そこでコラボ限定の召喚獣を操り、バーチャルモンスターのアニメの名シーンを再現した戦闘を4回行う。
 1周クリアすることで、8種のコラボ限定召喚獣の中からランダムで1体が貰えるというものだ。

 召喚師以外にはあまりおいしいイベントとは言えないこと、そして現在ドロップ効率の美味しいハンティングイベントが開催中ということで、過疎気味になっているが、ソロ専用のイベントなのでヨハン一人でも問題なく遊べるそうだ。

「色々ありがとうゼッカちゃん。貴方に会えて良かったわ。それじゃあ私、イベントに行ってくるわね」

 本当に世話になったと、頭を下げて礼を言うヨハン。

「そ、そんな。初心者に優しくするのは古参の義務ですから……それと、あの」

 ゼッカは急に顔を赤らめ、もじもじし出す。

(ゼッカちゃんどうしたの急に!? でも可愛いわ)

 内心慌てるも、ヨハンはゼッカの言葉を待つ。

「あの、私とフレンド登録してくれませんか? また、お姉さんと遊びたいです」
(う~ん。バチモンイベント以外興味ないから断りたいところだけど)
「駄目……ですか?」
(涙目可愛いわ……)
「オッケーよ!」
「やったー!」

 ヨハン、可愛い女子に甘い女であった。フレンド登録を済ませると、ゼッカは手をブンブン振って去っていく。その姿を見送ってから、ヨハンはイベントエリアへの移動ボタンをタップした。


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第5話 ユニーク装備

 それから一週間。仕事終わりの貴重な時間を使い、圭はバーチャルモンスターズのコラボイベントを楽しんでいた。いやむしろ、コラボイベントしかやっていないと言ったほうが正しいだろう。  だが。 「あれ、ヨハ ...

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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