小説

11

2022年10月19日

 個展の最終日の夜。

 閉館間近の美術館に、涼は訪れていた。流石に人気はなく、殺風景だ。

 誰もいない広い美術館に、自分のこれまでの作品が並べられている。
 まるで今の自分のようだと苦笑いしながら「果たしてこれで採算がとれるのだろうか」と、今まで尽くしてくれたマネージャーの心配をした。

 カツカツカツ。

 誰も居ない美術館には、自分の足音しかしない。

 タッタッタッ。

 はずだったのだが。

「おや、若い足音が聞こえると思ったら」

 振り返ると、そこには制服を着た女子高生が立っていた。その女子高生は涼と目が合うと、何か言葉を発しようとして、咳き込んだ。

 どうやら長い距離を走ってきたようだ。

「あ、あの、私は」
「いいよ。わかる。みゅうみゅうだろう?」
「はいっ! ……えっと、羽月美優です」

 そう嬉しそうに答えた。

「ここに来たってことはもう知っていると思うけど。石丸涼だ。画家のようなことをやっている。よろしく」

「よ、よろしくお願いします!」

「で、どうやって私のことを調べたの?」

「それは……」

 ゲームとは違い、実際に見たハゼルこと石丸涼に圧を感じたのか、美優は少し怖がっているようだった。

「おいおいそう怯えるなよみゅうみゅう。怒ってるんじゃない。感心しているんだ」

「えっと……友達のギルティアって子が、ハゼルさんに見覚えがあるって」

 美優がずっと仲直りしたいと思っていた友人の一人、ギルティア。彼女は最近、知り合いとその話題で盛り上がったらしく、頭の片隅に引っかかっていたのだ。

 そして、後はネットで個展の情報を調べて、ここまでやってきたという訳である。涼がここに顔を出すのは今日この瞬間が初めてだったので、奇跡のようなタイミングだったと言えるだろう。

「で、その時【石丸涼】の話をしていた知り合いっていうのが、【ヨハン】ってプレイヤーなんです。その人、涼さんの同級生だったって。もしかして涼さんの捜している哀川圭って――」

 興奮気味にまくし立てる美優の言葉を涼は手で遮った。

「知ってる」

 あの日。美優が友人と仲直りしたあの日。すれ違った。その瞬間に全て気が付いた。

「会って行かないんですか?」

「会わないよ」

「な、何故ですか」

「確かに私は哀川圭を捜していた。けど別に会うために捜していたわけじゃない」

 自分の画家としての人生が行き詰まったあの時。

 ふと、昔の友人との思い出が蘇った。

 無理矢理大人になろうとしていた彼女は、大丈夫だろうかと。

 遠くから一目見られればそれで良かった。確かめられれば、それでよかった。

 そして、涼は見た。

 親友は、出会った日と変わらない、ひまわりのような笑顔をしていた。

「私が画家になったのはな。とある女を笑わせたかったんだ。心の底から、子供みたいに笑って欲しかったんだ。最近思い出した。初心ってヤツさ」

 友人の笑顔を取り戻したい。自分以外の絵ではなく、自分の絵で。そんな初心は、流れていく忙しい日々の中で少しずつ薄れ、消えてしまっていた。

「けど、その役目は誰かが代わりに引き受けてくれたらしい。私はさ。多分アイツのことが心配だったんだと思う」

 けれどもう大丈夫。

 あの日、あの夏の日。かつて少女たちが夢見た場所で、哀川圭は幸せそうに笑っていた。

「それがさ。凄い嬉しいんだ」

 涼のその顔を見て、美優は何か言いたそうに口をぱくぱくさせていた。

「それじゃ、ハゼルさんは……」

 そんな言葉を言おうとして。
 だが、それを飲み込んだ。

 その時。

 閉館を告げる音楽が鳴った。

「さ、仕舞いだみゆみゆ。家には自分で帰れるか? お姉さんが送っていってやろうか?」

「大丈夫です。ここから電車で30分くらいなんで……」

 それ以降、何も会話をせず、美術館を後にした。

 そして。

 別れ際、美優が振り返った。

「哀川さんに会わない……それはもう何も言いません。本当は言いたいけど、言いません」

「おいおい怖いな。さてはみゆみゆ、結構根に持つタイプだな?」

「真面目に聞いて」

「あ、はい……」

 その美優の迫力に思わず怯む涼。

「涼さん。貴方のもう一人の相棒、イヌコロにお別れは言いましたか?」

「そういや……」

 言ってなかったなと思い出す涼。

「海外からじゃ日本サーバにはログインできませんから……ちゃんとお別れしてあげてください」

「んんん……わかった。わかったよ」

 涼は少し面倒に感じながらも、美優と別れた後、自分の滞在するホテルへと戻った。

12 離れていても

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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