小説

8 結末

2022年10月15日

 無事第三層へとやってきた6人は、拠点都市であるアスカシティのレストランで軽い打ち上げを行った。
 そして、達成感に満たされたミュウは、鼻歌を歌いながら夜のアスカシティをハゼルと二人、歩いていた。

「これでハゼルさんの人捜しも捗りますね!」
「ああ。これもみゅうみゅうのお陰だぜ」
「そんなぁ。ハゼルさんが呼んできてくれた助っ人のお陰ですよ」

 その場限りの即席パーティと言いつつ、なんだかんだで全員とフレンド登録をしてしまった。これもMMOの醍醐味だろう。

「ま、とにかくだ。私が日本に居られるのもあと四日。ああ、今日も入れれば五日か。それまでは付き合ってもらうぜみゅうみゅう」

「あ……そうか。ハゼルさん、日本から……忘れてた」

 本当は覚えていた。だが、あまり考えないようにしていたことだ。始めはただの変な人だと思っていたが。
 ハゼルと出会ってたった一週間ほど。それでも明るい彼女のお陰で、ミュウは悲しい出来事を忘れていられたのだ。

「おいおいどうしたみゅうみゅう? 泣いているのか?」

「な、泣いてないです……ただ。年上の方に失礼かもしれないですけど……ハゼルさんのこと、友達みたいに思ってたから……寂しいです」

「友達……か。若い子にそう思って貰えるっては……なんか。嬉しいなおい」

「うぅうう……うう」

「おいおい、いい加減泣き止めよ……私は泣いている女の慰め方なぞ知らないんだ」

 二人は近くにあったベンチに腰掛ける。ハゼルはミュウが落ち着くのを待ってから、口を開いた。

「何かあったんだろ? 教えてごらんよ、お姉さんに」

 ハゼルは思い出す。
 今のミュウの表情は、先週初めて見かけた時と、まったく同じだった。目に涙を浮かべ、顔を赤くして、心の痛みに必死に耐えているような、そんな表情をしていた。

 あの日。そんなミュウがほっとけなくて、思わず声を掛けてしまったのだ。きっかけは滅茶苦茶だった。不審に思われるかもしれない。

 それでも、ハゼルはミュウに声をかけたのだ。

 確かに自分と別れるのが辛いというのもあるのだろう。だがそれだけで、ここまで弱るとは思えなかった。

「く、くだらないことですから……ハゼルさんにお話する程のことでは……」

「おうおう、自分のことをくだらないなんて言うな。それにさ。私はあと数日で日本を離れる。そうすれば、もう二度と会うこともないだろう?」

 その言葉にミュウの肩がかすかに震えた。それでも、ハゼルは続ける。

「そんなさ。二度と会わなくなるような相手だからこそ、話せることもあるんじゃねーかな?」

「……っ。はい……実は」

 ミュウは観念したように話した。

 親友二人と一緒にGOOを始めたときのこと。

 本当は召喚師が良かったのに、二人に流されて言い出せなかったこと。

 剣士だけの最強ギルドを目指して頑張っていたこと。

 強さを求めるあまり、過酷になってしまったGOOでの生活が嫌になったこと

 辞めるとき、親友の一人に「本当は召喚師でやりたかった」と、恨み言を言ってしまったこと。

 そして。

「二人は……三人で作った【最果ての剣】を捨てて、新しいギルドに入ったみたいでした。新しい仲間たちと、楽しそうにしていました。それは友人として、とても喜ばしい、喜ぶべきことの筈なのに……」

「うん」

「私は素直に喜べませんでした。それどころか、黒い感情が次々と湧き上がってきて……自分が嫌になって……ああ、子供だな、私」

「わかるよ……」

「ハゼルさんにもそういう経験があるんですか?」

「ないから想像した。多分泣く」

「えぇ……」

「なぁみゅうみゅう。そんなに自分を【最低】だとか【地味っ子】だとか【性格最悪】だとか卑下するな」

「あれ、私そこまで言いましたっけ?」

「誰だって大好きな友達が自分の知らないヤツと楽しくしてたら面白くねーよ。それにさ」

 ハゼルはどこか遠い目をしながら、ミュウに語り掛ける。

「大事な友達が離れていく。どこか遠くへ行ってしまう。離れ離れになる。それを笑ってやり過ごせるようなヤツを、私は大人だとは思わねーよ」

「ハゼルさん……」

「なぁみゅうみゅう。無理に大人になんてならなくていいんじゃねーか? その友達にもさ、もっとわがまま言ったっていいんじゃね?」

「わがまま……」

「ああそうだ。会いたい。語りたい。遊びたい。ただ一緒に居たい。素直に伝えろ。そういうわがままが美しい友情たる時間は、今だけなんだぜ?」

「……はい」

「それにさ。案外向こうの方も、みゅうみゅうと仲直りしたいと思ってるんじゃねーのかな」

「あはは……そうだと……いい……なあ」

 感極まったのか、さらに大泣きを始めるミュウに半笑いになりがなら、両手を挙げてギブアップのポーズを取るハゼル。

 だが、それがいけなかったのだろうか。

 もしその光景を何も知らない第三者が見れば。

 ガラの悪いハゼルがミュウを虐めているように……見えなくもなかった。

「アンタよアンタ! そこの派手な怪しいヤツ……何をしてんのよ!」
「ミュウ、助けに来たよ!」

「え?」

 ミュウが驚くのと同時に腕を引っ張られる。何事かと見れば、目の前にはゼッカとギルティア。二人の友人がハゼルからミュウを庇うように立っていた。
 街中なので戦闘はできないが、それでもミュウのためにと、ハゼルを敵意むき出しの目でにらみつけている。

「ど、どうして……二人が!?」

「ガルドモールくんが教えてくれたのよ」
「ミュウが怪しい女に泣かされているってね」

「ガルドモール……あの変な語尾の……」

 ガルドモールとは、ギルド最果ての剣のメンバーであり、ミュウとも面識があった。

 数分前。彼は久々に見かけたミュウに声を掛けようと思ったが、怪しい女……ハゼルが横にいたので、様子を窺っていたところ、ミュウが泣き出した。
 怪しい勧誘でもされているのかと思い、慌ててギルティアに連絡をしたのだ。

「おーい、みんなを呼んできたぜ」
「ゼッカさんのお友達が大変と聞いて」
「暴れるわよー☆」

 そして、ゼッカの所属する【竜の雛】のメンバーも続々と集まってきた。

「ナイスよオウガくん!」
「さあ……ハゼルさんでしたか? 私たちの友達に何をしていたのか……話して貰いましょうか?」

「あーなるほどなるほど」

 気まずそうに頬を掻いていたハゼルは、ふと何かを思いついたように指を鳴らす。すると、悪人ぽい表情を作って、わざとらしく悔しがる。

「その子が一人で歩いてたから、ちょっとからかっただけだよ。しかし、こんなに仲間が現れたら勝ち目がない。分が悪いどころの話じゃない。悪かったよ、許してくれ」

 そう言うと、ひらひらと手を振って、立ち去る。

「ハゼルさん……ま、待って……」

 追いかけようとするミュウ。だが、丁度【竜の雛】のメンバーたちの到着に遮られ、ハゼルを見失う。

「みんなありがとう! 来てくれて嬉しいよ。お陰でミュウは無事だった」
「大丈夫、ミュウ? 何も変なことされなかった?」

「……ハゼルさん」

 その瞬間、ミュウの元にメッセージが届く。開いてみると、それはハゼルからのメッセージだった。

『上手くやれよ。あと……なかなか楽しかったぜ! ハゼル』

 そして、フレンド登録が解除された。

 ミュウは、去り行くハゼルの寂しそうな背中を思い出す。

(わざと悪役になって私とゼッカたちが仲直りするきっかけを作ったってこと? そんな……そんな寂しいこと)

「はぁはぁ……あれ、間に合わなかった!?」

 そして、遅れてやってきたのはヨハンというプレイヤー。ギルドホームから急いでやってきたためか、以前の漆黒の鎧ではなく、ラフな部屋着のような装備をしていた。

 ヨハンはミュウに近づくと、息を整えてから、やさしく微笑んだ。

「貴方がミュウちゃんね。ゼッカちゃんから話は聞いてるわ。ずっと会いたかったのよ」

「は、はぁ……?」

(綺麗な人……芸能人? ハゼルさんと同じくらいの年齢かな?)

「あ、私はヨハン。竜の雛のギルドマスターなの」

(この人が……)

 ヨハンの自己紹介に、ミュウも同じく自己紹介で返す。

「ああ、私の自己紹介はいらないわよね。ほら、ゼッカちゃん? ギルティアちゃん? 何かミュウちゃんに渡すものがあるんじゃない?」

「渡したいもの? 私に?」

 ヨハンに促されたゼッカとギルティアが照れくさそうにミュウの前に立つ。すると、二人はそれぞれ召喚石を取り出す。
 それは、今開催されているバチモンコラボイベントで入手できるアイテム【プチドラ】と【プチコロ】の召喚石だった。

「あのねミュウ。この召喚石は特別で、サモナーじゃなくても召喚してペットにできるの」

「ほ、ほら、アンタ言ってたじゃない。本当は召喚師をやりたかったって。だから……」

 二人はどこか怯えた様子で召喚石を差し出している。「拒絶されたらどうしよう」そう考えて、震えているのだ。

『案外向こうも、お前と仲直りしたがってるかもよ?』

(ああ……ハゼルさんの言ってた通りだ。二人とも……私のために)

 もっと自分が早く二人に話しかけていれば。みんな、こんなに苦しまなくても済んだのかもしれない。でも。
 ミュウは一呼吸置くと、ゆっくりと口を開いた。二人を安心させるように。

「うん。ありがとう二人とも。凄く嬉しいよ」

 ミュウの言葉を聞いて、ゼッカとギルティアは泣き出した。

 そして、そんな三人の様子を、竜の雛のメンバーたちは優しく見守っていた。

***

***

***

「めでたしめでたし……ってか」

 ミュウ、ゼッカ、ギルティアたちの様子を遠くから双眼鏡で眺める影があった。

 ハゼルだった。

「いやー感動感動。お姉さん、あやうく泣いてしまうところだったぜ」

 やはり心配だったのか、悪役を引き受けてその場を離れた後も、ミュウのことを遠くから見守っていたのだ。

「しかしまぁ。みゅうみゅうよ。お前は本当に……凄いやつだよ」

 ハゼルは先ほどのことを思い出していた。この高台に来る途中。ミュウたちの方へと必死に走るその人物とすれ違った。

 黒い部屋着に身を包んだヨハンというプレイヤー。向こう側から、あまりにも綺麗なフォームで走ってくるヤツがいると思って見てみれば。それはハゼルの探していた人物、ヨハンこと、哀川圭だった。

 ハゼルは改めて、双眼鏡でヨハンたちの様子をのぞき込む。ヨハンは仲直りの喜びで泣いているゼッカに抱き着かれ、困ったような嬉しそうな、そんな顔をしていた。そして、その頭上には目を閉じているヒナドラの姿があった。

 ハゼルはハッと息を呑む。そして、静かに微笑んだ。

「そんな笑顔、あの時以来だね……圭ちゃん」

 仲間に囲まれ。相棒のヒナドラを乗せ。心から幸せそうに笑うヨハン。それは小学生以来失われていた、ハゼルが好きだった彼女の本当の笑顔だった。

「私の知らない誰かが、私の好きだった圭ちゃんの笑顔を取り戻してくれたんだ。ヒナドラかな。それともあの子たちかな。どちらにしても……これで安心して帰れるよ」

 そう言うと、ハゼルはメニューを開き、ログアウトボタンを押した。

「じゃあね、圭ちゃん」

9 夕日の約束

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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