お前のような初心者がいるか!

第81話 1時間だけ待ってやる

 殺殺コロコロホビー部からの刺客を全滅させたヨハンとゼッカは、最果ての剣のギルドホーム【白亜の城】を目指していた。

だがその最中、ギルド【永遠の夏休み】のギルドホームを発見した。

「ふざけたギルド名ですが、現在8位のようですね……」
「潰しておきましょう」

ということで、たった二人で襲撃をかけたのだ。

ファンタジー世界の巨大な樹木をくり抜いたようなギルドホームを、二人は蹂躙していく。

どうやら強いプレイヤーは殆ど外に出かけていたようで、難なくホーム中枢まで侵入することができた。

そして、ギルドクリスタルのある最深部まであと少しというところで、ヨハンとゼッカの二人は異様なものを発見した。

それは部屋の角に張り付いた4、5メートルはあろうかという巨大な白い繭だった。うっすらと輝くエフェクトを纏い、心臓のようにドクドクと脈打っている。

かいこかしら?」
「エイリアンの卵かも……どうしますヨハンさん?」
「何か嫌な予感がするわ……破壊しましょう」

 ヨハンがブラックフレイムを放つ動作に入ると、どこからともなく声がした。

「やめてええええええええ!!」

丸いメガネを掛けた学者風の白衣を着た少女が慌ててこちらに駆け寄ってきた。一度コケて、再び立ち上がると、少女は繭を守るようにヨハンたちに立ちはだかる。

モスらー Lv:50 召喚師

年齢は丁度ゼッカとレンマの間くらいだろうか。可愛らしい顔を精一杯歪ませて、威嚇するようにヨハンたちを睨んでいる。

「侵入者め……私の召喚獣に触らないでください!」

「召喚獣……? これが?」
「こんなの見たことないですね」

 コンの作戦のお陰か、ユニークを除くほぼ全ての召喚獣を揃えている竜の雛。そんなヨハンたちでさえ、目の前の繭は全く見覚えのないものだった。首を傾げるヨハンたちを見て気分を良くしたのか、モスらーはニヤニヤしだした。

「え? ワームをご存じで無い? 貴方も召喚師なのにぃ?」

滅茶苦茶嬉しいのか、この状況でヨハンたちにマウントを取りだすモスらー。

「どうしましょうヨハンさん。正体は気になりますが……このまま殺しますか」
「そうねぇ。後で調べればわかることだし」
「すみません自分調子に乗りました自分命乞いの最中でした見逃してください」

生殺与奪の権は自分たちが握っていることを相手に自覚させつつ、どういう訳なのか聞き出す。

すると、モスらーは嬉々としてこの繭の召喚獣について語り出した。

 この召喚獣の正体は芋虫型の初級召喚獣【ワーム】。ユニークでもなんでもないノーマルな召喚獣だ。スキルは持っているものの、そのスキルは実践向きではない【繭化】というもの。

 繭化することによりあらゆるステータスが最低値に落ちる。そして、移動も戦闘もすることができなくなる。その代わり、この状態で6時間生き残ると、ワームは【究極変態】することができる。

 何か決まった姿があって、それに進化するわけではなく、その時の状況を打開する存在へと進化するのだ。
AIによりCGグラフィック、ステータス、スキルが自動生成されるという。

「ああ、そういえばコンちゃんが言っていたような……おもろいネタスキルって」
「コンさんにしては珍しく辛辣ですね」
「ええ。なんでも社会人の貴重なオフタイムを6時間も消費するなんてとんでもないとか」
「確かに……」

【繭化】。面白そうで強力なスキルだが、GOOにおいてこれを成功させたものは少ない。

 まず召喚獣である関係上、動けなくなったワームの側に、召喚者が6時間ずっと付き添っている必要がある。VRMMOで6時間、何もしないで待っているというのはかなり苦痛である。

 そして、動けなくなっても一体召喚獣を呼び出している状況な為、これ以上新しい召喚獣を呼び出すことはできない。敵に襲われればアウトなのだ。繭は雑魚の攻撃でもあっけなく死ぬ。つまり別のプレイヤーも6時間、護衛に付き合って貰わなくてはならないのだ。

 ならば安全な街でやればいいのでは? と思うかもしれない。だが、【繭化】は状況を打開する姿に究極変態するスキルである。街中で6時間守り抜いても、そもそも打開すべき状況がないため、究極変態せずワームのまま出てきてしまうのだ。

それは、ギルドホームでも一緒だった。

だが、この前のギルドホーム襲撃イベントの際、モスらーは気が付いたのだ。

ギルドホームも戦場になっている今なら、究極変態いけるんじゃね? と。

だが襲撃イベントはリアルタイムで且つ時間も少なかった為、実験できなかった。しかし今回は違う。時間加速が行われているのだ。これを絶好の機会と思ったモスらーは早速繭にしたのだが。

「そこで私達に出会ってしまったという訳ね」
「残念でしたね。えいっ! えいっ!」
「やめんかっ!! 当たったらどうする!?」

ゼッカが繭に向けて剣を振り、寸止めする。それを見てキレるモスらー。

「とは言っても、今の話を聞いた以上、これは確実に倒しておく必要がありますよ」
「ええ、多分私とゼッカちゃんを瞬殺するくらい強い召喚獣が生まれるんでしょうし」

「そ、そこをなんとか……お願いです。見逃してくれたらなんでもしますから」
「ふふふ、ダメ」

ヨハンが繭に向かって手を向ける。

「くそ……こうなったら……うわあああああ」

やけくそになったモスらーはヨハンに飛びかかると、黒い鎧に包まれた顔を殴る。そして、1ポイントのダメージも与えることができず、手を押さえて地面に転がる。

「うわー」

「わ、私なにもしてないわよ?」
「大丈夫ですヨハンさん。彼女は圧倒的なステータス差の前に敗れ去ったのです」

「うおーいてー」と転がるモスらーを見下ろしながらヨハンとゼッカは語る。モスらーは「ちくしょう……ちくしょうー」と涙目になっていた。

「究極変態……究極変態さえすれば……!!」

それはモスらーの完全な負け惜しみだった。もうここで終わる。だからこそ口から零れた負け惜しみに過ぎなかった。

だが、逆に、その熱意がヨハンの心を動かした。

「その究極変態というのは、そんなに凄いの?」
「ヨハンさん!?」

「……? え、ええ。貴方のような最強クラスのプレイヤーが敵として側に居れば……最強を超えた、神のような召喚獣が誕生するはずです……」

「神……モスらーちゃん。この子の究極変態はあと何時間で完成するのかしら?」

「ちゃん付け!? え、えっと……あと一時間程度かと……」

「一時間……なら。モスらーちゃん。私もここに残って手伝うわ」
「は?」
「え?」

「一緒に歴史的瞬間を目にしましょう?」

ヨハンのとんでもない提案に戸惑ったのはゼッカの方だった。

「正気ですかヨハンさん!?」
「ええ、正気よ。ゼッカちゃんも見たいでしょう? 究極の召喚獣」
「いやんなもん別に見たくないです」

「あら残念。ならゼッカちゃん。先に上に行って【永遠の夏休み】のギルドクリスタルを破壊してきて頂戴」
「ちょっ……お前何言ってんだよ!」

流石にそれには難色を示すモスらー。

「あら、それくらいはいいでしょう? その繭を見逃してあげるし、何ならこの後くる他のギルドの人たちからも守ってあげるわよ?」
「ぐっ……まぁ夢だった究極変態が見られるなら……別にうちのギルドが負けてもいいか」

とはいいつつ、モスらーは内心ほくそ笑んでいた。ギルドクリスタルが破壊され、今後永続的にポイントが半減したとしても、それでも究極変態が成功すれば、残りの時間でポイントを取り戻せるという算段が。

その時は目の前のヨハンも泣かす! と、こっそりと意気込んだ。

 どこか釈然としない様子で上に向かったゼッカを見送る。そして無言のまま数分が経過すると、階下から騒々しい声が近づいてきた。どうやら別のギルドが侵入してきたようである。

「ほ、ほら出番だよ! 私と繭を守れ!」
「ふふふ、当然よ、約束だもの……ああ、本当に楽しみね」

ヨハンは不気味に笑うと、階下から侵入してきた連中を消し炭にした。

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第82話 その強さはクワガイガーの1000% 

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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