お前のような初心者がいるか!

第77話 たぶん明日もお邪魔します

「ロビーは難なく抜けられたな」
「そうですね……」

 ロビーへと侵入したエックスはリーダー格であるアベンジャーマスオと合流しつつ、10人ほどで、次の部屋への螺旋階段を駆け上っていた。

「自分としては、ロビーを守っていたあの銀髪狐耳の女がクスクス笑っていたのが気になるのですが……」
「あれは負け惜しみだろう」
「庭の防御にかなりの数の召喚獣を割いていたから、ロビーの守りは手薄だった」
「そうですね……」

「これは俺の予想なんだが……」

と、アベンジャーマスオは難しい顔をしながら言った。

「おそらく、この城の最大の防御ポイントは、庭なのだと思う」
「確かにとんでもない量の召喚獣がいたな」
「あれを抜けるのは苦労したぜ」

「だろ? ヨハンとしては、庭で侵入者を全滅させてしまいたかったんじゃないかと思うんだ。何しろ数はこちらが上。いくら個々の能力が高いプレイヤーが集まっていたとしても、8人じゃどうしようもない数の利が、こちらにはある」

「なるほど。それじゃあこの大人数で庭を突破したってことは……」
「ああ、もう半分勝ったと言って良いんじゃ無いか?」

「おお……」
「ついに」

「そうかなぁ……」

一人納得できないエックスは、次々と二階へ飛び込んでいく仲間に続く。

扉を潜るとそこは……。

***

***

***

「ぎゃあああああああ」
「おげえええええええ」
「ぎいいいいいいいい」
「コロシテ……モウムリ……コロシテ」

地獄だった。

これは物の例えなどではない。

地獄だった。

まず2Fに突入したエックスたちの目に入ったのは、やたらキャピキャピしたアイドルソング風の曲に合わせて歌い、踊るおっさんの姿。

それだけでも厳しいのに、何故かそのおっさんは露出の多いアイドルの衣装に身を包んでいた。

この時点で突入した10人の内、1人が発狂。1人は自分で自分の目を潰しそのまま倒れた。

「なんなんだコレは……」

 エックスは破壊されそうな自らの三半規管を心配しつつ、周囲を見回してみる。薄暗い部屋はやたらアダルティックな照明に照らされて、壁には趣味の悪い絵画が飾られている。

 まるで『美術館。但し作者は全員サイコパス展』に迷い込んでしまったようだ。高熱出した時に見る悪夢の方がまだ現実感があると言ったところか。

「大丈夫ですか!? 一体何が」

 そしてエックスたちは、先にこの部屋に来ていた、今は中央で震えている同志に声を掛ける。その男、ビューティーはガタガタと震えるだけで、頑なに口を開かなかった。

 その様子を見て、アベンジャーマスオは舌打ちした。

「ビューティー……有能な男だったが……コイツはもうダメだ。戦えん」
「一体何があったんだ……」

「初見じゃ驚いたがあんな変態のダンスどうってこと……おえええええエェ」
「あの変態を不用意に見るな。死にたいのか!」
「ぐぅう……目が腐る……」
「視力が半分ぐらいに落ちた気がするぜ……」

「どうします? あの変態を倒しますか?」
「うう……だがそうするとどうしてもアレが視界に入る」
「つまり攻撃担当は精神的死を覚悟する必要があると?」
「でだ、誰かやりたいか?」

 全員が首をブンブンと横に振った。というわけで放置して先へ進もうと階段の方へ向かう一行だったが。

――ドサッ

 次の階層へと向かうエックスたちの前に、何かが落ちてきた。

「死体?」
「いや、これは同志だ。同志【うんちょっちょ】だ」

 なんとボロボロのプレイヤーが上から落ちてきたのだ。そして、落ちてきたうんちょっちょはそれがトドメのダメージとなったようで、光の粒子となって消滅する。そして消滅の刹那、うわごとのように呟いた。

「逃げろ」と。

一同の背筋が凍る。

「うあああああああ」

 恐怖のあまり、一人が叫びながら走り出した。そして、皆が止める間もなく、何か黒い影に攫われて、姿が消える。

「や、やめ……何を……ぎゃああああああああああああああああああああ」

ボキッ。グギッ。グチョォオ。

 そして次の瞬間には、変わり果てた姿で落ちてきて、消滅した。

 一同は黙ってつばを飲み込んだ。

 変態の歌声響くこの暗闇に……得体の知れない【何か】が居る。

「これは……悪夢か」
「おかしいだろ。俺たちは楽しくゲームを遊んでいた筈なのに。どうしてこんなホラーな状況に陥らなくちゃいけないんだよ!」
「落ち着け……頼むから落ち着け」
「これが落ち着いていられるか! 俺は絶対ヨハンと戦うんだ!」
「待て! 不用意に動くな!」

3Fへ続く階段へ掛けだしたガルガロッゾ。だが、そのガルガロッゾの上に黒い影が落ちてきた。

「ぐぎょべがあああ」

おおよそ人間の口から出たとは思えない断末魔が聞こえた。

 その衝撃でガルガロッゾは死亡。だが、エックスたちにとって、そんなことはどうでも良かった。
何故ならエックスたちは、この空間の支配者たる目の前の怪物と戦わなくてはならないのだから。

「ドナルド・スマイル……」
「ハァイ侵入者ちゃんたち☆」

 気さくに笑うドナルド。エックスは一度掲示板でスクショを見ていたお陰で助かったが、初見ならこの時点で発狂していたかもしれない。それほどの恐怖。

 現に何人かは心が折れたのか、座り込んで泣き出してしまった。

「あらぁ泣いちゃってかわいそうに……どうしたのボウヤ。何か怖いものでも見たのかしら?☆」

「お前だよ」とこの場にいた全員が突っ込みたかったが、恐怖で声は出なかった。ドナルド・スマイルの意識が座り込んでしまったユーリルに向いているこの時、横に居たアベンジャーマスオが小声でエックスに話しかけてきた。

「俺とイッパツで怪物ドナルドの注意を引き付ける。その隙にお前は上に行け」

「え……ですがそれじゃあ皆さんがヨハンと戦えないんじゃ」

「それは最初に言っただろう。誰がヨハンの所にたどり着いても恨みっこなし」

「そうだエックス。それにもしヨハンにタイマンで勝てる可能性があるとしたら、剣士のお前だけだ」
「大丈夫だエックス。ヨハンはMPを封じれば必ず勝てる。お前なら……やれる」

「マスオさん……イッパツさん……」

 その時、エックスの頬を伝ったのは、涙だった。

 最初はランキング戦で初心者ユニーク装備持ちにやられた憂さ晴らしのつもりだった。だけどこの掲示板は居心地が良くて。みんなちょっと変わっているけど、いい人たちで。

「わかりました。ヨハンは必ず俺が倒します! 勝って、みんなでフレンドになれるよう頼みましょう」
「ああ。さぁ、早く行け。稼げて1分って所だ」
「いや、30秒だ。行け」

 アベンジャーマスオの台詞をイッパツが訂正する。30秒あれば十分だ。涙で歪む視界の端に、怪物に襲いかかる二人の同志の姿を納めながら……エックスは3Fへと足を進めた。

***

***

***

「120人居た仲間も、俺一人か……」

エックスは扉に手を掛ける。あといくつ部屋を突破したらヨハンの元にたどり着けるのか。

わからない。

だが、それでも。例えどんな敵が相手でも。

「諦めねぇ……絶対に」

震える手にぎゅっと力を込めて、扉を開く。すると。

「ギチィイイイイイ」
「がるおおおおんんぐ」

エックスを出迎えたのは二体の階層ボスモンスター。

電子雷帝クワガイガーと絶対氷帝クリスタルレオ。

どちらも、何回も死んでを繰り返して突破した、超強力なモンスターである。

その二体を見たエックスは、意外にも余裕の表情だった。

「フッ。なるほどね……フッ。ふぅ……」

そして、余裕の表情のまま武器を投げ捨てると……。

「降参します」

そうして、彼の心は折れたのだった。

竜の雛120P獲得。
***

***

***

数時間後の王座の間では、キングの役割を受けたレンマ、そしてゼッカとヨハンの三人がつまらなそうに待機していた。

「むぅ……せっかく用意したのに。誰も来ないわね」

いじけたような様子のヨハンの視線の先には『ようこそ竜の雛へ』と書かれた垂れ幕が下がっている。
あの掲示板の民たちの襲撃以降、ぱったりと襲撃の手が止んだのだ。

「……まぁウチに攻め込んで全員倒しても、わずか8Pだからね」
「他のギルドからしたら旨味がなさ過ぎですよ」

「そうよねぇ……」

「でも、ひとつだけ敵にこの城を攻めさせたくなる方法があります」
「そ、そんな方法が?」

ゼッカの言葉にヨハンの顔が輝いた。その様子を見て、ゼッカは気分良く続ける。

「ええ。ポイントを稼ぐことです。ポイントを稼ぎまくれば、競合ギルドは私たちのポイント半減を狙って、城を攻めてくる筈です」
「なるほど……なら、そろそろ外へ攻めに出ましょうか」

「いいですね。守りはコンさんたちに任せて……私たちはポイントを稼ぎに行きましょう!」

ヨハンとゼッカが立ち上がる。次回、魔王出陣。

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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