お前のような初心者がいるか!

第73話 カオスアポカリプス

 カオスアポカリプスとは、アニメ版のバーチャルモンスターズ最終話手前に突如登場したラスボス。

 設定としては、神に作られたバチモンのプロトタイプの一体。通常のバチモンが人間の【愛】【絆】【善意】など、光(プラス)の感情を糧に進化するのに対し、カオスアポカリプスは人間の【嫉妬】【欲望】【悪意】など闇(マイナス)の感情を糧に成長する。その力はとても強く、存在するだけで世界を崩壊させるほどの闇を生み出してしまう、忌むべき存在だった。

それ故、バーチャル世界ワールドの神に封印された。

彼は神に【選ばれなかった者】なのだ。

彼は自分を生み出した神を憎み、その憎悪は膨れ上がる。やがて彼は神によって選ばれた、命あるもの全てを憎むようになり、死したバチモンのデータを取り込み、バーチャルワールドに顕現し、全てを破壊しようとした。

だが、そこは悪役。

一度は子供たちを全滅させるものの【未来への無限の可能性】を持つ子供たちは再び立ち上がり、圧倒的な力でカオスアポカリプスを倒した。

「私を呼んだのはお前か?」

 冷たい声が、宙に浮かぶ少女へ向けられる。カオスアポカリプスは少女を見定めるように、じっと見つめる。それは、少女が本当に呼び出したかったのは自分ではないのだと、気づいているような。それでいて尚、少女を試すような、推し量っているような問いだった。

少女は冷や汗をかきながら、答える。

「え、ええ! その通りよ。私はあなたを求めていた。私に力を貸して頂戴な」

「いいだろう。貴様を私のテイマーと認めよう……では」
「ぐっ……何を!?」

少女の足下に突如黒い穴が開く。それはまるでブラックホールのように暗く、深い。そこから無数の黒い手が伸びて少女を掴み、引きずり込もうとする。

「何故……私を認めてくれたんじゃ……!?」

「認めたとも。私は人間の心の【闇】をエネルギーとする。だから、貴様にはこれより闇の世界へと沈んでもらう」

「闇の……世界……?」

「そうだ、未来ある者よ。私がかつて神に封印された闇の世界。そこは果ての無い停滞と無限の苦痛が支配している。貴様は私のテイマーとして、そこで永遠の苦しみを味わって貰う」

「え、永遠の苦しみ?」

「無限の可能性も。輝かしい栄光も。ほんの一握りの幸せさえも。全て閉ざされた闇の世界で貴様は永遠を生きる。だがそれだけではない。光に包まれた幸せな世界で、親に愛され、友と笑い、愛を育む幸せな者が暮らす世界の様子を、永遠に見せつけられるのだ。かつての私と同じ苦しみを味わってもらう。それこそが、私のテイマーになるということだ」

「嫌だ!! た……助け……く、私が……こんなところでえええええ」

こちらが助ける間もなく、少女は闇の世界へと消えていった。その様子を見て、ヨハンは震えた。そして、レンマに訪ねる。

「ねぇレンマちゃん。一応聞くのだけれど、あれってAIなのよね?」
「……うん。このゲームのNPCは、キャラクターの行動理念を学習させたAIが、役割を演じている……ボクはカオスアポカリプスを知らないけど、原作でもああいうキャラなんでしょ?」

「そうね。原作通り過ぎて……吐き気がしてくるわ」

 現在ヨハンたちの目の前にいるカオスアポカリプスは、バチモンコラボの時に用意されたCGの使い回しである。無論イベントを周回したヨハンは何度もその姿を見ている。だが、あの時のカオスアポカリプスは原作にある台詞を言うだけだった。

 しかし今、目の前にいるカオスアポカリプスは、初めて聞く台詞ばかり喋っている。だがそのどれもが、バチモンの大ファンであるヨハンを以てして【らしい】のだ。

 本当にこの場に彼が現れたら言いそうな台詞を喋る。それがヨハンにはとても怖かった。

 まるで20年前に子供たちに倒されたはずのカオスアポカリプスが、現代に蘇ったような、そんな錯覚を覚える。

「……お姉ちゃん。いくら再現度が高くても、所詮はキャラクターを再現したAIだよ。怖がることはないよ」
「ええ、そうね。あ、メッセージが表示されたわ」

ヨハンの目の前にメッセージが表示される。

『お父さんを探して:最終ミッション』
『敵から3分間生き残れ』
『参加プレイヤー、及び博士のHPが0になるとクエスト失敗』

「……長かったクエストもこれが最終戦。頑張ろうお姉ちゃん」
「え、ええ……クロノドラゴン――タイムメイカー!!」

「ぐるあああああああ」

 フィールド内が時計型の魔法陣に埋め尽くされる。クロノドラゴン最強のスキル【タイムメイカー】が発動したのだ。これにより、この場でこれまで発動された全てのスキルが使用可能になる。先ほどベビーたちが多くのスキルを使ってくれたお陰で、その種類は豊富だ。

 まずヨハンは【デコイ】を使わせ、敵の攻撃をクロノドラゴンに集中させる。さらに20秒間【無敵】状態を付与するアイアンウォールを発動。徹底的な時間稼ぎ体勢をとる。

「これでどう……?」

 ヨハンは冷や汗をかきつつ言う。

「愚かで愛おしい、かつて子供だった者よ。未来無き者よ。お前たちと戦う理由は私にはない。だが先ほどの少女テイマーの願いを、一応聞いてやらねばならぬ」

 カオスアポカリプスの背後の空間に、先ほど少女を吸い込んだような穴、暗黒のゲートがいくつも広がる。その数はおよそ50ほど。

「……な、何あれ?」

そしてそれぞれの穴からは、闇に染まったモンスターがこちらをのぞき込んでいた。

「あれがカオスアポカリプスの能力……私が普段使っている全ての召喚獣のスキルを使えるスキル【暗黒の遺伝子】の元になった力」

「――アルティメットバースト!!」

 カオスアポカリプスが叫ぶ。黒いゲートのひとつから、蛇のようなモンスターの頭部が現れ、黒いエネルギー波を放つ。その攻撃はクロノドラゴンに命中。そして。

『――クロノドラゴンの【ターゲット集中】【無敵】が解除されました』

「……強化解除攻撃!?」
「まずい……」

ヨハンは博士とレンマを押しのけると、すぐさま前に出た。

「――メギドフレイム!!」

 今度は別のゲートから、禍々しいドラゴンの頭部が出現し、火球を放ってくる。そのターゲットはヨハンたちだった。それを予感したヨハンが前に出て、レンマと博士を守る。

『スキル【ガッツ】が発動しました』

 スキルの【ガッツ】のお陰でなんとかHP1で耐えたヨハン。だが状態異常【やけど】を受けてしまう。すぐさまレンマがその症状とHPを回復する。もしヨハンが装備を変更していなければ、一撃で負けていただろう。

カオスアポカリプスは再び攻撃対象をクロノドラゴンに切り替えたようだ。

「――ジオサイドフォース!!」

 ゲートから陰に包まれたクロノドラゴンの頭部が出現し、ジオサイドフォースを発射する。
ヨハンのクロノドラゴンも、同じくジオサイドフォースにて迎え撃つ。両者の攻撃は中央でぶつかり合い、しばらく競り合った後、相打つ。

「互角か……?」

博士が呟く。

「……互角って、おかしいよ! クロノドラゴンには、まだお姉ちゃんの掛けたバフが残ってる筈なのに」

【フラワー・オブ・ライフ】の効力は3分続く。先に掛けたバフの効力は終わっているものの、現在クロノドラゴンにはまだ【フラワー・オブ・ライフ】1回分の効果が残っていた。

「レンマちゃん……本物のカオスアポカリプスはね、全部のバチモンの能力を使える……でもただ使えるだけじゃないの」
「……え?」
「特殊能力【終焉の星ジエンド】。カオスアポカリプスは、全てのバチモンの能力をオリジナルの10倍の精度で使えるのよ」

カオスアポカリプスは個のあらゆる能力を、これ以上ないというほど完璧に完成ジエンドさせてしまう。

「……そんな滅茶苦茶な……バーチャルモンスターズの主人公たちは、どうやってあの化け物を倒したの!?」
「それは……子供がもつ【無限の可能性】を……こう……爆発させて……その力で……バチモンがパワーアップして……」
「……ふわふわ過ぎるよ!」

「かつて子供だった、未来無き者よ。お前たちでは私には絶対に勝てない」

 レンマが驚愕する中、カオスアポカリプスはクロノドラゴンへの追撃の手を緩めない。背面のゲートからは様々なバチモンが姿を覗かせる。

 悪魔や獣、ヴァンパイアやドラゴン、人形やサイボーグ、魔人など、ヨハンも見知った様々なバチモンの影が姿を見せ、攻撃を開始する。

 一撃目、二撃目と攻撃を避け続けるクロノドラゴン。だがいつまでも続かない。足に攻撃が命中し動きが止まると、そこへ攻撃が集中する。

「ぐ……ぐぅ」
「クロノドラゴン!!」

 クロノドラゴンは弱々しい声で鳴くと、光の粒子となって消滅した。

「……まさか、クロノドラゴンが為す術もなく負けるなんて」

 レンマにとっても、クロノドラゴンはヨハンの手持ちで最強というイメージが強かった為、衝撃を受ける。

「私のクロノドラゴンが……」

その時だった。突如、クエストクリアのメッセージが表示される。

「え……?」

ヨハンはすっかり忘れていたが、3分間が過ぎたのだ。それと同時に、カオスアポカリプスの背後に開いていた無数のゲートが消滅し、その体も光の粒子となって消えていく。

レンマと博士がホッとしたように尻餅をついた。

「体を維持できなくなった……か」

そして、カオスアポカリプスはヨハンの方を向く。

「かつて子供だった者よ。貴様では、私に勝つことはできない。何故だかわかるか?」
「……いえ、わからないわ」
「それは、お前の未来にはもう【可能性】が残されていないからだ」
「え? 何を言って……」
「これ以上語ることはない。さらばだ……私と同じ、選ばれなかった者よ」

ヨハンの疑問には答えず、カオスアポカリプスは深淵の向こう側へと消えていった。

***

***

***

「助かった。本当に助かったよ」

博士はフラつきながらも頭を下げてきた。

結局あの少女が何者だったのか。それは判明しなかった。レンマ曰く、もしかしたら大きなストーリーの序章的なクエストだったのかもしれないとのこと。

とにかく後味こそ悪くなったものの、確かにクエストはクリアしたのだ。博士からクエストの報酬が支払われる。

「依頼者でもないのに報酬を払わなくてはならないなんて……博士さん、災難ね」
「お礼と言ってはなんですが、これを」

博士はひとつの召喚石を取り出すと、それをヨハンに手渡した。

「それは最近発見された召喚石……その名も中級召喚獣【ネクロドール】」
「……やった! 新しい召喚獣だねお姉ちゃん」
「え? そうね……。ワーイワーイ」
「……物凄い棒読み。もうちょっと興味持ってお姉ちゃん」

 相変わらずバチモン意外には興味が薄いヨハンであった。そんなヨハンの態度を知ってか知らずか、博士は解説を進める。

「この召喚獣は特殊なスキル【ダブルフェイス】を持っている。上級召喚獣召喚時、この召喚獣一体で二体分のコストとなる。さらにスキル解放すれば、【トリプルフェイス】、【ファイブフェイス】を覚える」

 流石に効果は聞かなくてもわかる。素材が大変ではあるが、これによって上級召喚獣の召喚がかなり楽になるだろう。コンが喜びそうだ。寧ろコンに渡してしまってもいいかもしれないとヨハンが考えていたとき、メッセージが表示された。

『スキル【ソウルコンバート】を取得しました』

効果:自分のコントロールする召喚獣のステータスに、自身のステータスの数値を加える。
効果発動中、自分は相手にダメージを与える事ができない。

《取得条件》
クエスト:お父さんを探して をクリアする。

「……大がかりなクエストだったけど、召喚石ひとつとスキルひとつ。上出来だね」
「ええ。そうね」
「……もしかして、さっきあのモンスターに言われたことを気にしてるの? だったら気にしない方がいいよ。多分思わせぶりなこと言ってるだけだって」
「そうだと、いいんだけど……コンちゃんたちの感想を聞きたいわね」

ヨハンは抱えた言い知れぬ感情を、コンたちのクエスト攻略が終わるまで、胸の奥にしまっておくことにした。

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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