お前のような初心者がいるか!

第65話 エピローグ

 それから数日後。フリーズアイランド最深部にて。

 ヨハン、オウガ、メイ、煙条Pの四人はこのエリアのボス、ブリザードンと戦闘をしていた。水色の巨大なティラノサウルスといった風貌のブリザードンは氷を操るモンスターだ。

「~~♪ ハッ……ハッ♪」

 氷の洞窟に、煙条Pの美声が木霊する。煙条Pはスキル【ライブ・フォー・ユー!!】の曲の一つ【経験値増殖中☆】を歌い踊る。

 この歌による特殊効果は、パーティの取得経験値が二倍になるという破格なものだった。さらに一曲分の3:50秒が過ぎ、曲の二周目が始まると2.5倍、三周目で3倍と倍率が上がっていく。もちろん煙条Pが攻撃されたり、曲を間違えたりしてしまえば無効になるというリスクがあるが。

 先日煙条Pがメッセージを送ってきたのは、自分が参加することでレベル上げ作業を早く済ませようという提案だったのだ。
 そして、煙条Pの協力によって予定より早くレベルを39まで上げたヨハンたちは、その興奮のまま最深部のボスのところまでやってきた……というのが事の経緯である。

「メェ」
「じっとしててねスケープゴート。貴方がこの変た……煙条Pさんを守るのよ」

 敵から煙条Pを守るように立つのはメイ。【デコイ】を使えるスケープゴートを配置し、煙条Pを守る役割を担っている。

 そして、敵と戦うのはヨハンとオウガ。オウガはヨハンのメテオバードを駆り、空中から攻撃を仕掛ける。そしてヨハンは地上にて、敵の攻撃を引きつけながら、大技のチャンスを窺っている。

「くらえ……スラッシュ!!」
「ぎゃううううううううう」

 オウガの放つ剣の斬撃がブリザードンを襲う。敵の体がよろめいた隙に、ヨハンは【増殖】を発動。その増殖体にバフを使わせようとするが……。

「ぎゃおおおおんんんん」

 洞窟に咆哮が轟く。ブリザードンのスキル【氷の咆哮】。プレイヤーに掛かっている強化状態が解除されてしまう。増殖による分身も強化扱いのようで、ヨハンの分身は砕けるように消滅してしまった。

「むむむ、厄介ね。何か……そうだわ」

ヨハンはひらめいたのか、手をかざし、クワガイガーのスキルを発動する。

「――【放電】!!」

 ヨハンの手のひらから雷が放たれ、ブリザードンを襲う。しかし、敵の体を包む氷の鎧に雷が弾かれてしまう。

「ヨハンさん! そいつの氷の鎧は状態異常攻撃を無効化するようです」
「そのようね」

 スタンさせ、その間に攻撃の準備をしようと思っていたが、どうやら無理らしい。ヨハンは長期戦を覚悟した。

「ぎゃおおおおおおお」
「まずい……必殺技が来るぞ」

 そして、そうこうしている内に敵が必殺技の準備に入る。オウガに言われるまでもなく、ヨハンは【デコイ】を発動し、攻撃を自分に引き寄せる。

「ぎゃおおおおおおおん」

 ブリザードンの口から放たれたエネルギー攻撃はヨハンが引き受ける。かなりの防御力を持つヨハンの耐久値ですら守り切れず、久々にガッツを使用させられた。

「ギルマス……俺にスケープゴートの召喚石を渡してくれ……」
「スケープゴートを?」
「ああ、空中でデコイを使ってかく乱してやるぜ」
「なるほどね」

 ヨハンはオウガの提案をのんだ。スケープゴートの召喚石をストレージから取り出すと、【暗黒の因子】のスキルを発動。召喚石をカオス化させ、オウガへと投げ渡す。

「へへ、行くぜ……【デコイ】発動! さあこっちだ!」

オウガはデコイを発動させる。ブリザードンの顔が、空中を飛び回るメテオバードとオウガへ向かう。

「今のうちね……【増殖】」

 自身を増殖させ、【フラワー・オブ・ライフ】を重ね掛ける。さらに【増殖】を使い、コピーの人数を6人に増やす。もっと増やせるが、今回はスピード勝負。これくらいの人数の方が操作しやすいのだ。

「上級召喚術を取ったら使わなくなるかもしれないから……最後は派手に行くわ!」

ヨハンは6体の分身を、敵を囲うように配置し、構えを取る。

「ヘラクレスオオカブトの構え・終局の刻・六道輪廻!!」

 敵がオウガ一人に集中している内に、6体の分身が一斉にバスタービートルのスキル【テラーズブラスター】を放つ。

「ぎゃおおおおおおお」

その輝きが氷の鎧を砕き、ブリザードンのHPを削りきった。何倍にも増幅された経験値が四人に流れ込み……ヨハンのレベルは40へと到達する。

『スキル【上級召喚術】を習得しました』

 これにて、ようやく。

 ヨハンは上級召喚獣の召喚が可能になった。

***

***

***

 無事レベルを40まで引き上げたヨハン、オウガ、メイ。そして手伝ってくれた煙条Pがギルドホームに戻ると、ゼッカたちが出迎えてくれた。

「おかえりなさいヨハンさん、みんな」
「なんや早かったな」
「ええ。煙条Pのお陰でね」
「経験値増強できるんだったわね☆」
「なんでそんな能力を持っていてパーティを追放されるんですか?」
「はい、それが自分にも不思議でして」
「誰か鏡持ってきて。鏡」

「みなさん、盛り上がっているところ申し訳ないですが」

パンパンとホワイトボードを叩きながら、ゼッカが叫ぶ。盛り上がっていたみんなはそちらに注目する。

「戻ってきた四人はまだ知らないようですね」
「さっきギルド対抗戦の概要が発表されたのよ☆」
「おおっ」
「ま、まだ大まかな概要やけど」

ゼッカが再びホワイトボードを叩くと、運営からの告知画面が表示される。

ギルド対抗イベント【殺し合い祭り】開催決定!!

【概要】
最強のギルドを決める祭典が再び開催。新ルール、新システム導入。

【開催日時】
来週・金、土、日曜 各20:00~21:00
(ゲーム内時間を加速させます。三日間、それぞれゲーム内で12時間)

【参加条件】
ギルドに加入しているプレイヤーのみ

・只今から参加受付を開始致します。参加希望ギルドのギルドマスターは下記の受付ボタンから手続きに進んでください。

・イベントは三日間の合計のポイントで競います。参加ご希望ギルドの皆様は、スケジュールの調整をお願いします。

・詳しいルールは後日告知。

【重要】
今回のイベントに報酬はありません。得られるのは【最強ギルド】の栄冠のみ。

「これ、12時間を3回やるってことよね?」
「それで合ってると思うわ☆」
「トレジャーイベントよりは短いのか……?」
「……何故三日間に分けるんだろう?」
「どうしても予定が合わん人への配慮やろなぁ。まぁうちは休暇取ったけど」

 とわいわい盛り上がる。そして、ヨハンは立ち上がると、ホワイトボードの前に立ちつつ、自らのメニューを開く。先ほどと同じ告知ページを下にスクロール。参加申し込みボタンを表示する。

「みんな、細かい予定があると思うけど……とりあえず参加でいいのよね?」

「当然です。やるからには、トップを目指します!」
ゼッカが拳を突き上げる。

「……うん。このメンバーなら、いいところまで行けると思うよ」
レンマのゴリラフェイスが微笑む。

「召喚師が他の職業と組めば最強いうことを思い知らせたるわ」
コンが悪い顔で笑う。

「暴れるわよ☆」
ドナルドが指をバキバキ鳴らす。

「竜の雛の勝利を。プロデュースさせて頂く」
煙条Pが踊る。

「必ずアイツに勝つ」
オウガが決意を語り。

「あ、足手まといにならないように頑張る」
メイが小さくファイトポーズ。

ヨハンはメンバーたちの言葉を聞いて、ゆっくりと頷いた。竜の雛結成からだいたい一ヶ月。その間の出来事が、ずっと昔のことのように頭を巡る。

そして。

「それじゃあ行くわよ……私たち【竜の雛】初の大舞台【殺し合い祭り】参加っ!」

ヨハンは参加申し込みボタンを押した。

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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