お前のような初心者がいるか!

第62話 君が目指すべきは

 オウガこと男鹿優作おが ゆうさくは、近所のサッカークラブチームに所属していた。ポジションはキーパーである。ドッジボールが得意とか、そんな理由で、小学3年生の頃からキーパーをやり始めたのだ。

 上達するにつれて次第にキーパーの奥深さを知り、サッカーがどんどん楽しくなっていった。だが小学5年生に進級した頃。

「今日からこのチームに所属することになりました、神酒召一みき しょういちです。ポジションはキーパーです。よろしくお願いします」

 クロスこと、神酒召一が同じチームに入ってきたのだ。優作と召一の母親は近所同士で仲が良い。優作は昔から召一と比較されて育ってきた。だからこそ、召一の居ないこのチームは、優作にとってはオアシスだった。だから狙い澄ましたかのように同じポジションを選択し、練習初日からスーパープレーを連発する召一を、優作はうんざりした顔で眺めていた。

「申し訳ありませんが僕は忙しいので練習には参加しません。ですが試合にはちゃんと来ますので、安心してください。僕を使えばこのチームでも勝てますよ」

 そう言い残し、その日は帰って行った。コーチやチームメイト達は困惑した。スポーツにおいて、試合だけ出席なんてありえない事だからだ。いや、もっとレベルの高いチームならばあり得るのかもしれないが、小学生の、しかも地方の弱小クラブチームでそんな事が認められるはずもなく。

「安心しろ優作。俺はお前が努力しているのを知っている。あんな舐めたヤツは試合に出さないさ」

優作はその言葉に安堵した。

だが。

 それから一月後。軽い捻挫で欠場した優作の代わりに出た召一は、ミラクルプレーを連発。土日で行われる小さな地区大会を制することとなった。

それが転機だった。チームメイト達は召一への態度をがらりと変える。
「よく試合だけ来られるよな図々しい」
から
「よく来てくれたね、これで今日も勝てるよ」
へ変化した。それ以来、優作が試合に出ることはなかった。

その年度の2月。先輩である6年生にとって最後の試合の日。召一が熱を出して欠席との連絡が入った。

『今日はお前にまかせる』

 召一からラインを受け取った優作は、軽い感動に震えた。召一にチームを任されたと、それが無性に嬉しくなった。だからその日は全力で戦った。先輩達も、頑張った。
 今日の予選リーグを勝ち抜けば、決勝リーグは来週。そうすれば召一と、もっと一緒に戦える。だが、現実は甘くない。リーグ全敗という無残な結果で、優作の5年生最後の試合は幕を閉じた。

「今までの勝利は、全て神酒くんのお陰だったという訳か……」

コーチの言葉に、優作は深く傷ついた。

次の日。

「ゴメン。お前にチームを任されたのに……俺……自分が情けないよ」

 優作は教室で、召一に頭を下げた。召一から任されたのに、勝つことが出来なかった。それが申し訳なくて堪らなかったのだ。
 だが召一は、いつも通りの表情で言う。

「いや、それでいい」
「え?」
「だから、勝てなくていいと言ったんだ。来週は有名ユーチューバーとコラボ配信する予定でね。もし決勝リーグに進んでいたら、予定が被ってしまっていた」

優作は一瞬、目の前の召一が何を言っているのか理解できなかった。

「お、おま……一体何を!?」
「相変わらず頭の回転が悪いなお前は」
「いやわかるよ。つまりあれか? お前、来週が試合だと困るから、ズル休みしたって事だろ?」
「そういうこと。僕が居たら、目を開かないくらいの手抜きしないと勝っちゃうからね」

「でも……俺たちが自力で勝つ可能性があっただろ。先輩たちがやる気を出して……そうしたらどうするつもりだったんだ?」

 優作は、先輩たちの顔を思い出していた。「召一の為にも頑張る」と叫んでいた先輩たちの顔を。もっと召一とサッカーをしていたいと泣いていた、先輩たちの顔を。

「その可能性は100%ないと確信していたさ。だってお前等、雑魚だからな」
「お前……お前っ」

優作は許せなかった。目の前の召一ではなく。こんなヤツの思惑通りに負けてしまった、弱い自分が許せなかった。

「何を怒ってるんだお前? 久々に試合に出られて嬉しかっただろ? 僕が休んだお陰で試合に出られたんだ。じゃなきゃお前卒業までベンチウォーマーだったぞ」

怒りに震える優作を前に、さらに召一は続ける。

「ま、人間って生まれた時から役割が決まってるんだよ。残酷だけどさ。僕は勝って勝って勝ち続け、栄光を掴む人生の勝者。お前は負けて負けて負け続け、暗闇でくだらない一生を過ごす敗者。おいおいそんな顔をするなよ。僕がお前をいじめてるみたいじゃないか。僕は本当の事を言っているだけだぜ?」

 その日。優作はサッカークラブを辞めた。両親ははじめこそ「途中で投げ出すなんて」と辞めることに反対だったが、優作の尋常じゃない落ち込み様を見てそれを了承した。

 その数日後。優作はオウガとして、友達と共にGOOでの冒険をスタートさせる。

***

***

***

「な? あんまり愉快な話じゃなかっただろ……って、うわ」

 オウガが話を終えると、竜の雛のメンバー達は妙にそわそわした様子だった。

「なんだよ気持ち悪いなぁ」

「いえ、なんというか熱いですね」
「なんやろこの気持ち……なんか背中が痒いというかなんというか」
「青春だわ。ワタシたちが昔に捨ててきた、青臭い青春がここにあるわ☆」

 アダルトチームはオウガの話に青臭い青春を感じ、居心地が悪そうな、しかしとても楽しそうななんとも言えない表情をしていた。
 そんな大人達の態度を見て「やっぱり言うんじゃなかった」と恥ずかしさで悶絶するオウガ。だが。

「クロスくんとの対決。してもいいわよ」

 部屋の隅に居たヨハンはいつのまにかテーブルの方へ戻ってきていて、オウガにそう告げた。

「い、いいのか?」
「ええ。もちろん、うまく行けばだけどね? それでもいいなら……」
「いい! それでいい! それ以外はちゃんとギルマスに従う……だから……よろしくお願いします」

 ここで初めて、竜の雛のメンバーに対して、オウガは頭を下げた。
 いろいろあって擦れていただけで、根は真面目な性格だったのだろう。
 とても綺麗なお辞儀だった。

「で、戦わせるのはいいんだけど……実際のところどうなのゼッカちゃん。オウガくんはクロスくんに勝てるの?」
「まぁ無理ですね」
「えぇ!?」

 ゼッカはきっぱりと言った。

「クロスはユニークスキル2つ。さらにユニーク装備を1つ持ってる。とても今のオウガがタイマンで勝てる相手じゃないです」
「くっ……いや、わかってたけどキツいな……やっぱり、何か強力なユニークスキルを……ちょっと俺、探してくる」
「待って」

 ギルドホームの外へと飛びだして行こうとするオウガをゼッカが止める。

「今からそんな事をしても無駄。それより、もっと確実な方法がある」
「本当か!? 教えてくれ」
「いいよ、はっきり教えてあげる。君が目指すべきはヨハンさんやクロスのようなプレイヤーじゃなく……このゲームのトッププレイヤーロランドさんの戦い方。私ならそれを教えられる……どう?」
「ロランド……の戦い方」

 オウガも聞いたことがある。攻撃力とスピードを重点的に強化し、多くのスキルを獲得してあらゆる状況に対応する。トッププレイヤーの7割がこの戦い方をしているという話を。

 オウガとてそれを試そうと思わなかったワケではない。だが。

『誰かが敷いたレールの上を歩きたくない』『オリジナル、異端でありたい』という願望故に切り捨てた道だった。

「それで……勝てるなら」
「もちろんすぐに真似できる程簡単なことじゃない。でも君の勝ちたいって思いがあれば……きっと結果はついてくる」
「はい……よろしくお願いします」

 オウガの瞳に闘志が灯る。それを見たヨハンとゼッカは微笑む。

「よし、そうと決まればレベル上げ。ロランド戦法の前に、最低でもレベルを40に上げてもらう……」
「う、うっす」
「40かぁ……先が長いなぁ」

間に合うか少し不安そうな顔をするオウガとメイ。そんな二人をヨハンが励ます。

「大丈夫よ。二人ならきっとやれるわ」
「なに他人事みたいに言ってるんですかヨハンさん」
「え?」
「ヨハンさんもこの二人と一緒に、レベル上げするんですよ? ダンジョン周回です」
「ええ……私、周回嫌いなのに……」

次回、小学生二人とレベル上げ

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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