「掲示板……打倒わたし……うぅ……酷いわ」
勝負の後。
自分を倒すための掲示板が存在する事をコンから知らされたヨハンはショックだったのか、闘技場の隅で膝を抱えていた。
「ああいうの気持ち悪いやろ? せやからある事ない事、偽情報を書いておいたんよ。ま、効果はあったみたいでなによりや」
「そうね。こうやって騙される子がいるワケだし☆」
「ぐぬぬ……何も言い返せねぇ」
そう。掲示板に書かれていた『MPをロックすれば何もできない』というのは、コンが書き込んだ偽の情報だった。確かにMPを封じれば、モンスターの召喚はできない。だがヨハンは召喚獣で戦うより自分で戦った方が強い異端のプレイヤーなので、それは攻略法にはならないのだ。
「斬子……じゃなかった、ギルティアが言ってたヨハンさんの攻略情報も、これの事ですよね……小学生なら騙されても仕方ないけど、あの子……」
「いえ、そうとも限りませんよ?」
ギルティアの頭を心配していたゼッカに、煙条Pが言う。
「その情報が確実かどうか疑うのも人間ですが、信じたい情報を信じてしまうのも人間なのです」
「そうねぇ。そんな簡単な方法が!? と思ったら、縋りついてしまうものよね☆」
「そんなもんですかねぇ」
ゼッカはギルティアの性格を知っているからか、複雑な顔だ。
「……けど、ゼッカの話が本当なら【最果ての剣】の注目は、【神聖エリュシオン教団】と【セカンドステージ】に向いているって事だよね?」
「あんなアホな子に従うてるん? あの子はギルマスいうだけで、別のブレイン担当がおるんやないの?」
「いいえ。基本【最果ての剣】はギルティアが決めた事にウェーイなノリでついてく、ハイパー陽キャゲーマー集団です」
「ハイパー陽キャゲーマー!?」
「なので、ギルティアが言うなら、本当に私たちのことは眼中にないんでしょう」
ゼッカとしては悔しいが、それは事実だった。だが、コンやドナルドはにやりと笑う。
「なるほど……これは勝ちが見えてきたかもしれへん」
「そうね……ワタシも、なんか行ける気がしてきたわ☆」
「え、どういう事ですか!?」
ゼッカが大人組に訪ねる。答えたのは煙条Pだった。
「つまりです。最強ギルドの筆頭【最果ての剣】がこのまま大手ギルドの【神聖エリュシオン教団】や【セカンドステージ】とぶつかる。そしてその間、私たちは戦力を温存すれば……」
「弱ったところを叩き潰せるってワケよ☆」
「そ、そうか!」
「まだ明確なルールが公開されてないからなんとも言えへんけどな」
ゼッカの顔が明るくなる。
「……でも、チャンスはゼロじゃない」
「はい、何しろこっちには、ヨハンさんがいますから! ですよね、ヨハンさん……あーまだ落ち込んでるんですねぇ」
ゼッカが目をやると、ヨハンはいつの間にか召喚したヒナドラのおなかに顔を埋めてすーはーしている。どうやら元気を取り戻す為にヒナドラを吸引しているようだ。
「一応説明したんやけどね。個人的に恨まれている言うより、強力なボス扱いされてるだけやって。そしたら『ボス!? 人をコンテンツ扱いするなんて酷いわ!』って余計に落ち込んで……」
「ヒナドラキメてるしすぐ戻ってくるわよ☆」
「と、とにかくです。勝機が見えてきたことが私は嬉しいですよ!」
「……そうだね。ここに居るみんなとなら、ボクも行ける気がしてきたよ」
「対抗戦まであと二週間くらい……ウチも何か出来る事を探さへんと」
「私は引き続き、皆さんの装備の強化を」
「おい、待ってくれ」
「ち、ちょっとオウガ……」
対抗戦に向けてまとまりかけていた空気をオウガが止める。
「なんや坊や」
「お前等、上位ギルドが消耗するまで戦わないで隠れてるつもりなのか?」
「せやけど何か?」
コンの威圧的な返答に一瞬言葉につまるオウガ。だが、覚悟を決めたように言葉を続ける。
「それは困る。俺はどうしてもセカンドステージギルドマスターのクロスに勝ちたいんだ」
「またそれ? さっき人知れず敗北感味わったばかりやろ?」
先ほどの勝負の後。オウガはコンやヨハン達からそれぞれのユニーク入手条件を聞き出した。もう取れない以上秘密にする必要はないと、コン達はオウガに教えたのだ。だが合計4つの入手条件を聞いたところで、そこから隠された入手条件を見つけ出すことはオウガには出来なかった。
無論それはクロスが凄いだけで、出来なくて当然だ。だが打倒クロスを目指すオウガにとって、それはとても屈辱的な事だった。
「あんまりしつこいと、ギルド入会の件も考え直す必要がありそうやな」
「そ、そんな……」
「オウガ……謝った方がいいよ。どう考えてもオウガの方が悪いよ」
怯えるオウガと、謝れと促すメイ。
「待って」
と、そこへゼッカが割って入った。
「オウガくん。君がそのクロスって子に勝ちたいっていうのはわかった。けど、良かったら理由も話してくれないかな?」
「理由……」
「そう、理由。君が否定した作戦は私たちが勝つ為には必須なもの。私たちにわざわざセカンドステージと真っ向勝負するメリットはない。でも君がクロスに勝ちたい理由に納得出来たなら……その時は君とクロスが戦えるように動いたって構わない。ですよね皆さん」
「……っ!」
ドナルドたちは頷いた。
「そうどすな。勝ち負けも大事やけど」
「同時にライバル同士の熱い戦いを見たいという思いもある」
「さぁボウヤ。話して頂戴。ワタシ達を燃え上がらせるような、熱いライバルエピソードをね☆」
「ら、ライバルって……」
少し顔を赤らめながら。オウガは少し迷った後、恥ずかしそうに、話を始めた。
「みんなを燃えさせられるかはわからねーケド」
そんな前置きを付け加えながら。
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第62話 君が目指すべきは
オウガこと男鹿優作おが ゆうさくは、近所のサッカークラブチームに所属していた。ポジションはキーパーである。ドッジボールが得意とか、そんな理由で、小学3年生の頃からキーパーをやり始めたのだ。 上達す ...
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