お前のような初心者がいるか!

第31話 略奪者の末路

 ヨハンを守るために装備なしの状態で、たった一人で海賊王を足止めしていたコン。ついにその身体を切られ、HPを全て失ってしまう。身体が粒子となって消滅していく中で、コンはその輝きを見た。
 光の中から巨大な竜が現れたとき、勝利を確信し、不敵に微笑む。

「海賊王……アンタの負けや」

***

***

***

 ヨハンの視界にメッセージが表示される。そこにはトランスコードによってヒナドラに宿った新たなスキルの効果が記されていた。

【進化召喚・ヒナドラ】
MPを全て消費して発動する。召喚者のストレージ内にある【クロノドラゴン】又は【メタルブラックドラゴン】を特殊召喚する。

「なるほど……バチモンの【進化】をGOOで再現するとなると、この様になるのね!」

 本来ならば【上級召喚術】を持っていないと召喚出来ないクロノドラゴンを例外的に召喚することが出来る、非常に強力なスキルと言えるだろう。

「という事は……イヌコロにトランスコードを使えば【ワーフェンリル】も呼べてしまうという事よね? え、待って! これはもう神アイテムでは?」

 ヨハンの目が怪しく光る。

「よし行くわよクロノドラゴン! あいつをボコボコにして、トランスコードをもっとドロップさせるのよ!」
「……」ジーッ
「な、何よその目は……わかってるわよ……私を信じてくれたみんなの為に……必ず勝つ……でしょ!」
「ぐるるああああああ」

 クロノドラゴンが雄叫びを上げる。

(深紅の目、ブラックモノゾイドメタルの黒い外装、両肩部のシールド……ヒナドラの意匠を受け継いだ二本のツノ……どこから見てもイケメン過ぎるわ……)

「うふふ……私のクロノドラゴン……カッコいいなぁ」

じゅるりと垂れそうになる涎をすする。

「げはははははは」

 コンが引きつけていた海賊王が、今度はクロノドラゴンに襲いかかる。クロノドラゴンの体長は6メートル程。対する海賊王の身体は通常の人間と同じ。普通なら勝負にならないが。

「げはははは」

 海賊王は高く跳躍すると、クロノドラゴンの脳天目掛けて剣を打ち付ける。爪をクロスさせてガードするクロノドラゴンだったが、敵の攻撃力は凄まじく、その衝撃で後ろに倒れてしまう。

「クロノドラゴン!?」

 上級召喚獣はレベル50程度の戦力。流石に一体でレイドボスを相手にするのは厳しいのだろう。

「そうよ。これはゲーム。進化してはい勝ったー! じゃないんだ。私があの子を勝利に導かないと」

 ヨハンはメニューからクロノドラゴンのスキルを確認する。上級召喚獣の召喚には本来、莫大なMPが必要である。その分スキルは強力な物が揃っているはず……なのだが。

「なっ!? スキル一個だけ!?」

 中級と同じく、最初は一つのスキルしか使えない。上級召喚術を持っていなければ上級召喚獣のスキル解放は出来ない。万事休すかと思ったが。

「……いえ、これなら勝てるわ」

 クロノドラゴンに使えるのは、たった一つのスキルだった。だがそれは、一つであって一つではない。

「行くわよクロノドラゴン……スキル発動――【真時空竜皇領域(タイムメイカー)】

 その時、クロノドラゴンの背から、光が放たれる。それは蝶の羽のように広がって、やがてフィールド全体を包み込んでいく。そして上空にはいくつもの時計を模した魔法陣が現れる。地底湖は、全くの異質な空間へと変貌する。

「その効果により、クロノドラゴンはこの戦闘中に発動した全てのスキルを発動できる!」

 クロノドラゴンの能力は、仲間達の思い、そして敵の思いすらもその翼に宿し、未来へと飛翔する。
 ヨハンの視界には、この戦闘で使われた全てのスキルが羅列されている。それは、ゼッカやレンマ、ソロやコンが残した思い。彼らの戦いは今、この瞬間の為にある。

「……でもやっぱり、やられっぱなしってのも……ねぇ?」

 ヨハンが意地悪く笑う。クロノドラゴンを沈めた海賊王は天井まで飛び上がると、壁を蹴って加速。そのままこちらへ剣を振り下ろしてくる。

「クロノドラゴン――【オールスティール】!!」

海賊王の体を、竜巻のエフェクトが包んだ。

『【海賊王の帽子】がヨハンのアイテムストレージに移動しました』
『【海賊王の服】がヨハンのアイテムストレージに移動しました』
『【海賊王の指輪】がヨハンのアイテムストレージに移動しました』
『【海賊王の闘剣】がヨハンのアイテムストレージに移動しました』
『【海賊王のマント】がヨハンのアイテムストレージに移動しました』

「げはははははは……は?」

全ての装備を奪われた海賊王。最早、ただの金色の骸骨だ。

「クロノドラゴン――【トリプルスラッシュ】!!」

 ソロの三刀流攻撃スキルで迎撃する。クロノドラゴンは鋭い爪を伴った手刀を三連撃。装備を失い防御力の大きく下がった海賊王に直撃させる。

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』

 海賊王の身体からアイテムがドロップする。だがそれを拾っている暇はない。これは勝機だ。

「畳みかけるよクロノドラゴン!!」
「ぐるうああああああ」

クロノドラゴンはその巨大な手で海賊王の身体をつかみ上げると、そのまま岩へと叩きつける。何度も何度も。

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』

 やはり装備が無くなった事で、相手の防御力は大きく下がっているようだ。先ほどのコン達との苦労が嘘のように【略奪者の末路】が発動する。
 そして、ドロップするアイテム数も、10、20、30と次第に多くなっていく。一向に装備は帰ってこないが。

「思い通りに戦えなかった私たちの気持ちが少しは理解できたかしら?」

 クロノドラゴンは跳躍すると、手に掴んでいた海賊王を思いっきり地面に叩きつける。

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動されました』

 海賊王のHPは、もう残り1割を切っていた。

「トドメよ。追撃の――【デュアルスラッシュ】!!」

 ふらふらと立ち上がった海賊王目掛けて二連撃を打ち込もうとするクロノドラゴンだが。

「早い……躱した!?」

 自分の身体を分解し、攻撃を躱す海賊王。さっきまでとは速さが違う。そしてバラバラになった骨は組み上がる事無く、それぞれがランダムな軌道を描き、こちらに攻撃を仕掛けてくる。その骨の速さはさっきまでの比ではなく、素早い。見てみれば、青いオーラを纏っている。HPが残り1割を切ったことで、新しい攻撃パターンが追加されたのだ。

「返せぇ……我の宝を返せぇえええええ!!」

 地底湖中に海賊王の声が響く。その声は本当に地獄の底から生者を呪っているようで、鳥肌が立つ。

(声優さん、いい仕事しすぎじゃないかしら?)

と思いながらも対抗策を探る。

「くっ……【ルミナスエターナル】……これでなんとか」

 魔法陣がフィールドに広がり、敵の攻撃から身を守る。これでHPが0になる心配はなくなったものの。

「このままではクロノドラゴンが……」

 骨によるオールレンジ攻撃は、徐々にではあるが、クロノドラゴンのHPを削っていく。しかしそれは、ルミナスエターナルでなんとかなった。だが、MPも問題だ。タイムメイカーの力でスキルを発動する際は、カオスアポカリプス同様MPの消費はない。しかし、召喚獣は存在するだけでMPを消費し、0になれば消滅する。

 こうしている間にもクロノドラゴンのMPは徐々に減っていく。時間が無い。

「……どうしたら」

「返せ……我の宝あああああああ」

「宝……そうか!」

 ヨハンは閃きのままにアイテムストレージを開く。取り出すのは先ほどクロノドラゴンが【オールスティール】で奪った【海賊王の指輪】。それを取り出すと、地面に投げ捨てる。

「宝……たあああかああああらああああ」

 地面に転がした海賊王の指輪目掛けて、散っていた骨が集結する。海賊王の姿に組み上がると、指輪を拾い上げ、自らの指に嵌めようとする……。その隙は絶対に見逃さない。

「今よクロノドラゴン! ――【グランドクロス】!!」

 ゼッカ最強の技が、クロノドラゴンを通じて放たれる。十字の斬撃は無防備な海賊王に直撃すると、その肉体を粉々に打ち砕く。海賊王の身体から、ため込んでいたアイテムが滝のようにあふれ出す。

「ぜははあああああ」

 それは笑い声なのか、それとも断末魔か。やがて海賊王の身体は黒い霧のようになって、霧散した。

「勝った? 勝った! ゼッカちゃんレンマちゃん、私やったわよ!!」

地底湖に、ヨハンの歓喜の声が木霊していた。

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第32話 オチ

『ありがとう! 本当にありがとう! 貴方たちのおかげで、海賊王は完全に消滅しました!』 『【カオスアポカリプス】【マジックリングZ】がヨハンのストレージに戻りました』  海賊王がまき散らした自分たちの ...

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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