お前のような初心者がいるか!

第30話 ハートに火がついたら

「――負けた……!?」

海賊王の放った攻撃が目の前に迫った時。私は負けを確信して、思わず目を閉じた。




『哀川先輩はぁ、何が楽しくて生きてるんですかー?』
『何よ急に? 失礼ね』

 ある日、会社の後輩がこんな事を訪ねてきた。

『だって哀川先輩、趣味とか無いんですよね? それってぇ、楽しぃのかなーって?』

 趣味はある。バーチャルモンスターズのアニメを見返したり、フィギュアやグッズを集めたり、バチモンの絵を描いたり。
 無理して買ったガラスのコレクションケースには、収集したバチモングッズが飾られていて、それを見るのが私の人生唯一の楽しみだった。

 ……でも。そんなことを堂々と言える訳がない。

 あれ?

 一体、いつから私は、好きなものを素直に好きって言えなくなったんだろう。




 私は『アニメ、おもちゃ、ゲーム、漫画……そんなものは全てくだらない物! 大人になったら卒業する物! 大人になってもそんなものが好きなんて異常者!』という考えを持つ父の元で育った。妹は反発していたけど、私には父に逆らう勇気は無くて。
 だからずっと自分は駄目な人間なんだと思って、バチモンが大好きな自分を、どこか欠陥品のように思って。そんな自分を隠して生きてきた。

『わぁ……生まれた!』

20年前。8歳の時。

 初めてバーチャルモンスターズのゲームを買った時の感動は今でも忘れていない。プラスチックの安っぽい卵形のケースの中央に四角い液晶があって。
 その中には16×16ドットで表現されたモンスター達が動いていた。今見れば、安っぽい玩具だろう。けれど当時の私は、その16×16ドットの世界で生きている彼らに本当の命を感じていた。

 友達の少なかった私は、バチモンを本当の友達のように愛し、育て、どこに行くにも一緒だった。
当時からゲームが下手だった私は、残念ながらヒナドラを最強形態の【クロノドラゴン】に進化させることは出来なかった。いつもその手前で止まってしまうのだ。

『きっと、私がまだ子供だからだわ! 大人になったらもっとゲームが上手くなって、きっと貴方を【クロノドラゴン】に進化させてあげられるわ。だから、その時までずっと一緒よヒナドラ!』

 当時は大人になってもこの子と一緒にいるのだと、何の疑いもなく信じていた。

『いつまでこんな幼稚なモノを……お前もう高学年だろう?』
『やめて……返して……返してよ!!』

 バチモンを取り上げた父に泣きすがっている私が見えた。だが小学生の力で大人に勝てるわけもなく、父はハンマーとペンチで念入りにバチモンを破壊すると、ゴミ箱に投げ捨てた。

『これはお前の為なんだ。いつまでもこんなモノで遊んでいたら、お前はダメになってしまう。今はお父さんの事が憎いと思うだろうが、いずれわかる。これはお前が立派な人間になるために、必要な事だったとな』
『……』

 私はバチモンを、ゴミ箱から取り出すことはしなかった。もし立派な人間になれなかったら。私もああなるんだろうと思えて足が動かなかった。だから、ゴミ箱の中に捨てられた友達を、助けに行くことが出来なかった。


 私はここから勉強やスポーツに力を入れた。高校に入りアルバイトを始めてからは、こっそりとグッズを集めたりしたけれど。時々見返して、勇気を貰ったりしたけれど。でもそれはとても後ろめたい事で。だから私はこう答えるのだ。

『哀川さん趣味は?』『好きなものは?』
『何もありません』

 その後、何か足りない日々を過ごしながら、無難な大学を卒業し、無難な会社に就職。一人で暮らしていくに困らない、自立した立派な大人になることが出来た。

そして三年後、父が亡くなった。

『お前は立派になった。私の誇りだ圭』

 と言ってくれた。私は、父の望んだ立派な大人になることが出来たんだ。良かった。厳しかったけど、私を大切に育ててくれた父に、最期に認められたんだ。

『本当に……?』

誰かが、問うてくる。

『本当に……? 本当に立派な大人になれましたか?』
「え……?」

 壊れたバチモンを手に乗せた少女がこちらを見ていた。それは、かつての私。

『貴方は立派な大人になったんですか?』

かつての私が問いかけてくる。

『一番大切な友達を見捨てて、立派な大人になれたんですか?』

私はしゃがんで彼女の目線に合わせると、その頭を撫でた。

「立派な大人には……なれなかったよ」
『……そう』

 少女は悲しそうに目を伏せた。私は彼女が持つ壊れたバチモンを手に取る。

「でもね。この子のお陰で、新しい友達が出来たの。歳は一回り以上も違うんだけどね」

 私はゼッカちゃんとレンマちゃんの顔を思い浮かべる。年の離れた、最高の友人だ。

『……本当!? どんな人なの?』
「自分の好きなものを、素直に好きって言える人」
『……素敵! それだよ! それがきっと、立派な大人の条件だよ! それが私のなりたかった私! 私はきっと、いつまでもバチモンが大好きな、素敵な女性になるんだから!』
「え、そう? そうね、きっとそう。だからね……」

私は目の前の少女から手を離し、立ち上がる。

「ちょっと遅いけど。私も《立派な大人》ってヤツに、なってこようと思うの」
『なれるよ! 貴方なら絶対なれる! だって貴方は……私だから!』


 しがみついて海賊王の動きを妨害してくれていたコンさんのお陰で、あの攻撃が私に命中することは無かった。だけど。

「もきゅぅ……ぅぅ」
「ヒナドラ!?」

 ガッツによってなんとか耐えたものの、HPが1となってしまったヒナドラはボロボロだ。今にも消えてしまいそうな痛々しい姿が、あの時父に壊されたバチモンと重なる。

「ヒナドラ……え、何か持っているの?」

 よく見れば、ヒナドラは何かアイテムを口の中にため込んでいた。もしかしたら逆転の手がかり!? と思いつつ取り出して、私は肩を落とす。
 上級召喚獣クロノドラゴンの召喚石。上級召喚術を習得していない私では、まだこのバチモンを呼び出す事は出来ないのだ。これは逆転の一手にはならない。

「もっもっ!」
「え、もう一つあるの……? これは……」

 不思議な輝きを放つ水晶のようなアイテムがヨハンの手に転がった。

【トランスコード】
装備、又はアイテムに対して使用可能。その能力を拡張させる。

「これは……コンさんが言っていた、第三層で実装予定のアイテム!?」

 私はこの奇跡のような展開に震えた。いや。これは決して奇跡ではない。

 ゼッカちゃんとレンマちゃんが全てを掛けて、ヒナドラを取り返してくれた。
ソロさんとコンさんが、希望を繋いでくれた……勝利へのラストピース。

今度は私が応える番だ。

「聞いてヒナドラ。貴方はきっと、ゼッカちゃんが言ったとおり、壊されてしまったあの時のヒナドラ。20年の時を超えて、私の所に帰ってきてくれた、一番大切だった友達」

「もきゅ!? ……もっきゅ!」

「あの時の私は、お父さんがとても怖くて……捨てられた貴方を助けられなかった。でも、傷ついてた。本当に傷ついていたの。大切な物を失うって、とっても辛いの。だから、あの子達に同じ思いをさせたくないの。理不尽に、一方的に大事な物が壊される悲しさを味わって欲しくない。そんな物を抱えたまま大人になって欲しくないの」
「もっきゅ……」
「私みたいに……なって欲しくないのよ」
「もっきゅ!」
「わかってくれたのね。そうよ、一緒に戦いましょう!」

 私はヒナドラの額に【トランスコード】を押し込んだ。

「もっきゅ……もっきゅー!!」

 途端……ヒナドラの身体が強く輝く。空間が震え、周囲を漂っていたデータがヒナドラの身体に流れ込んでくる。この現象に見覚えがある。

いや、これは私が一番良く知っている……。

「これは……もしかして進化!? ……そうよ、きっとそうだわ!」

それは現在のGOOには存在しない機能。でも私は、これが進化なのだと確信する。

「ブラックドラゴンに? それともメタルブラックドラゴン? ……いえ、さらにその先の……」

 それは子供の時の私にはたどり着くことが出来なかった場所。ゲームが下手っぴで、どんなに頑張っても、私のヒナドラがそれになることは無かった。

でも。

 このゲームを遊んで。関わった全ての人達の思いを繋ぎ……あの時、私とヒナドラの二人だけでは決して辿り着けなかった場所へ今。

「ヒナドラ!! 進化よ!!」
「もっきゅぅうううううう!」

 ヒナドラは私の声を受け取る。全身を震わせ、その小さな身体に収束させていた力を解放する。

――幼き心は成長し。

――その肉体は成熟を迎え。

――やがて目指した完全すら超えて。

――いざ、究極へと至る。

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第31話 略奪者の末路

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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