幻蝶の森の最深部に、神殿のような場所があった。蝶の幻影が舞う神殿の周りは魔法陣のような水路があり、中央部には玉座が置かれている。
ヨハン達が近づくと、幻影の蝶達が集結し、やがて人型となり、煌びやかな衣装に身を包んだ老人が姿を現した。
「良く来た。我は妖精王。そしてここは、妖精郷とこの世界をつなぐ境目」
妖精王と名乗った老人は、耳がエルフのように尖っており、白い肌は光の加減でプリズムのように輝いて見える。
「旅人よ、我が試練を受けるがよい。もしこの試練を突破することができたなら、蝶の精霊を授けようぞ」
『クエスト【妖精王の試練】が開始しました』
「始まったわね」
「ええ。しかし試練ってなんでしょう? バトルですかね?」
好戦的な笑みを浮かべ背中の剣に手を伸ばすゼッカ。
「待て旅の者たちよ。我は争いを好まぬ。お主達には、我が用意した【謎】に挑んでもらう」
「……謎か」
「今までやったことの無いタイプのクエストだわ」
ヨハンは困ったように首を傾げる。
「では第一問!」
妖精王の頭上に画面が表示され、そこに問題が五つ書かれている。
「……何かと思えば、試練っていうよりクイズだね」
「もっと高度な謎解きとか、パズルみたいなものを想像していたんだけど」
「ふっ。クイズと侮るでない。我が問は並みの者には答えることは不可能」
「……むむ、確かに」
出題された問題は『ジェネシス・オメガ・オンライン』に関するクイズで、なかなかの難易度を誇る。
ちなみにヨハンとレンマには一つもわからなかった。
「どうしましょうか」
「……」
ヨハンが首を傾げていると、ゼッカが一歩前に出て、口を開く。
「1、スライム。2、五つ。3、マスターソード。4、王様。5、この虫野郎!」
「全問正解じゃ」
どうやら、問題の答えを順番に答えたようである。ゼッカは正解した事に内心ほっとすると、振り返ってガッツポーズを決める。
「どーですか! GOOの知識なら誰にも負けませんよ!」
「ゼッカちゃん凄いわ」
「……やるね」
ゼッカのお陰で第一の試練を難なく突破。そして、第二の試練が始まる。
「次のクイズでは、召喚師よ。お主自身の知識が試されるぞ」
「ついにクイズって言っちゃいましたよこの人」
「お主が持つ召喚獣の中から、我がランダムにひとつを選択する。その召喚獣に関して知っていることを全て喋ってもらう」
「全て?」
「その通りじゃ。この試練では、お主の召喚獣に対する理解の深さが試されるぞ」
妖精王の言葉を聞いて、戸惑うヨハン。
「どうしましょう。クワガイガーとか選ばれたら何も話すことがないわ」
「それはあまりにもクワガイガーが可哀想では?」
だがヨハンの心配は杞憂に終わる。
選ばれたのは召喚獣【クロノドラゴン】。バチモンコラボイベントで手に入る召喚獣だった。
つまり、ヨハンの得意分野である。
「……やった。これなら!」
「ええ。ヨハンさん、語っちゃってください」
ヨハンはコクリと頷くと、異様なテンションで語り始めた。
「クロノドラゴン。バチモンの中でも最強とされる【究極形態】で、ブラックドラゴン系の最終進化形態よ。ヒナドラから続くずんぐりとしたデザインから一転、洗練されたスマートなデザインになったわ。普段は翼はないのだけれど、戦闘時に背中から虹色のオーラが飛び出して、それが羽のようになるわ。アニメではそのエフェクトが物凄くいいのよ! それで、設定なのだけど、『失われた時を取り戻す力を持つ伝説の竜』と言われているわ。まぁあくまでそれは設定で、アニメだとそんな力はなかったけれど。必殺技は【ジオサイドフォース】。口から強力なエネルギー波を発射するわ。全身は黒い鎧のようになっているけれど、実はあれは鎧ではなく、バチモン世界に存在する『生物と金属の両方の性質を持つ』という特殊合金【モノゾイドメタル合金】なの。しかも、クロノドラゴンが纏っているモノはよりエネルギー伝導率の高い【ブラックモノゾイド】と呼ばれているわ。初出は定価2980円の携帯ゲーム機【バーチャルモンスター VerX】。確かアニメ開始と同時に発売されたシリーズに収録されていたわ。ちなみに私も昔持っていたのだけれど、当時は所謂隠しキャラ的な存在で、子どもたちは疎か、大人でさえその存在を知らなかったわ。私も気になって調べてみたのだけれど、その進化条件は鬼畜そのもの。育成ミスや呼び出し無視を一度でもしてしまったら、もう進化できないらしいの。学校にこっそり持っていくとか、そういうズルをしないと、決して進化できなかったでしょうね。まぁそこをクリアしたとしても、バトルで無敗とか、ミニゲームの完全制覇とか、そういった要素も絡んでくるから、やっぱり小学生だった私には、難しかったかもしれないわ。アニメ版【バーチャルモンスター】では第三九話で初登場。本来【ヒナドラ】→【ブラックドラゴン】→【メタルブラックドラゴン】→【クロノドラゴン】と順番に進化していくのだけれど、アニメはヒナドラから一気に進化する演出が見られたの。そのシーンの完成度の高さは今でもファンの間では語り草よ。まぁ進化シーンこそ凄かったのだけれど、物語は終盤。その分、敵も強かったことから、結構苦戦するシーンが目立つのよね。ただ、一方的に負けたりはしないから、弱いという印象もないわ。強敵を何体も撃破しているし……ね。その後のアニメシリーズでの出番はなかったけれど、これはしょうがないのよ。別に人気がなかったというワケではなくて、人気過ぎて、扱いが難しいから、逆に出番がなかったの。ほら、他の作品でもそういうことあるでしょう? まぁ簡単にまとめてみたのだけれど。こんな感じでいいかしら?」
「お、おう……」
ヨハンの早口解説に引き攣った表情を浮かべる妖精王。横で聞いていたゼッカとレンマも、なんとも言えない表情をしている。
「え、ちゃんと聞いていた? 聞き逃したところがあったなら、もう一度答えるけれど。最初から」
「いや、マジでやめて。ご、合格じゃ。合格でオーケーじゃ! 突破~おめでとう!」
やけくそ気味に叫ぶ妖精王。その姿に、先程までの威厳はなかった。
「コホン……」
妖精王は咳払いをすると、一つの召喚石を取り出した。
その召喚石は、先ほどコンに見せてもらったクリスタルと同じ【プレレフア】のもの。
「……ついに最強召喚獣がお姉ちゃんの手に」
「やりましたねヨハンさん……ヨハンさん?」
喜ぶゼッカとレンマ。しかしヨハンは手に入れた召喚石を見つめながら、難しい顔をしていた。
「う~ん、確かに可愛いんだけど……これ、使うかしらね?」
言いながら、首を傾げる。
「……確かに。お姉ちゃんがバチモンよりそいつを優先させている姿は想像できないね」
「言われてみればそうですね」
納得する二人。
「えぇ……せっかく上げるんだから使ってよ……」
と、残念そうにする妖精王を残し、ヨハンたちは幻蝶の森を後にした。
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幕間の物語
そのエリアは、まるでホテルのワンフロアを貸し切った、パーティー会場のようであった。 この待機エリアには、イベント中にHPが0になったプレイヤー達が、イベント終了までの時間を過ごす場所となる。イベン ...
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