お前のような初心者がいるか!

第20話 殺戮と虐殺

 ダークエルフの里へとやってきたヨハンたち。里とは言っても、巨大な木をくりぬいて作られた、集合住宅のようであったが。
 そして里の中央は数枚の大きな板で囲われて見えなくなっており、その向こうからカロンの彼氏のものと思われる悲鳴が響き渡っていた。

「うああああああ! た、助けてくれえええええ」

「ダークエルフたちは全員あの壁の向こうですね。接近は容易でしょう」
「そうね……もっと近づいてみましょう。さぁ、カロンさん、もう少しよ」

 彼氏の悲鳴が聞こえるたびに肩をふるわせ、青ざめた表情をするカロン。ゲームのイベント故にそこまで酷い目にあっているとも思えないが、まぁ大事な人が拷問を受けているとなれば、心中穏やかではないだろう。
 それを考慮し、4人は壁のすぐ傍までやってきた。

「ぐんうぅ……あああああ……ひゃああああああ」

「さて、どうやって攻めるか……ですが」ヒソヒソ
「ソードエンジェルの【ゲート・オブ・ヘブンズ】で全員即死させましょう」ヒソヒソ
「ちょっと勿体ない気もしますけど……それが一番安全そうですね」ヒソヒソ

「ソラああああああ! 助けに来たよおおおおお!!」オオゴエ

「「「っ!?」」」

 その時、カロンが壁の向こうの彼氏に向かって大声で叫ぶ。壁の向こうからは「何事だ?」というダークエルフのものと思われる声が。

「何してるんですか! まったくこれだから彼氏持ちは……」

 憤りながらも剣を構えるゼッカ。

「カロン……カロンなのか……来るな、来るんじゃねえええええええぎゃああうひょーい。お、お前には……無理だああ」
「大丈夫! 強い人たちを連れてきたから!! 今そっちに行くからね!」
「うひょ……来るな……これは……お前には見せられんんんんんほおおお」
「大丈夫!? 大丈夫なのソラ?」
「お、俺のことは置いて……ひゃん……帰れええええええええ」

 目の前で繰り広げられるラブコメを冷めた目で見つめるヨハン、ゼッカ、レンマの三人。

「なんか様子が変ですよね、彼氏」
「ええ、これは」
「……苦しがっている声というより……」
「「「愉しんでいる声」」」

「なんかオチが見えた気がするわ……【エクスキャリバー】!!」

 ヨハンはソードエンジェルのスキル【エクスキャリバー】を発動させる。それにより、右腕の付け根の部分からビームソードが伸びる。さらに筋力数値に+80が追加される。

「はああああああ!!」

 そのビームソードを横一閃。中央を覆い隠していた壁を破壊する。破壊された壁が光の粒子となって消滅すると、中の様子が見て取れた。

「ほらほら……早く私に屈服してしまいなさい。ここ? ここなの?」
「んほおおおお……さいこおおおおおおおおおお」

 壁の向こうには、大勢のダークエルフたちが居た。褐色肌銀髪の非常に美しいダークエルフたちは、乳首などの大事な、見せてはいけない所が最低限隠れるくらいの衣服しか纏っていない。
 カロンの彼氏【ソラ】は仰向けの状態で4人のダークエルフに四肢を拘束されていた。それだけでダークエルフの身体を堪能するのには十分なのだが、さらに追い打ちとばかりにダークエルフの女王はそんなソラの顔を裸足でぐりぐりと踏みつけている。

「くそ、くそ……俺は……負けねぇ……どんな姿になろうが……人としての誇り……プライドは失わねぇ……逃げろおおおおおカロンんんん」

 立派なことを言っている彼氏だったが、その目は足の向こう側、ダークエルフの女王の股座を真剣に見つめている。ワンチャン運営がそこまで作り込んでいるのでは?と期待している。

「これは酷いわね……何が拷問なのかしら」
「そりゃキレますよ女性なら……なんですかあのデカ過ぎる胸は!」
「……はわわわ」///
「レンマちゃん、あっちで隠れてなさい」
「……うん、そうする。……ボクには刺激が刺激が強すぎだ」///

 女王の秘部を見ることに真剣になっていた彼氏は、助けに来た彼女がすぐ傍に来ていることに気が付かなかった。

「……ねぇソラ君……何をシテイルノカナ?」
「見え……見えっ……もうすぐ……え……?」

 一瞬で正気に戻る彼氏。ゴミを見るような目の彼女。

 ヨハンとゼッカはこんなに冷たい目をした人間を初めて見たという。

「た、たたたたた、助けに来てくれたんだね……カロン……そ、そのまま逃げちゃってもよよよよかったのににににににに」ガクブル
「ヨハンさん、ゼッカさん。どうやら私の彼氏は既に殺されていたようです」

「「「え?」」」

 ヨハンとゼッカ、そして彼氏の声が重なる。

「彼氏は既に殺されていたんです。だから、ダークエルフたちを倒してください。ドロップアイテムは全て差し上げます」
「ま、待ってくださいよ……彼氏を助けに来たんでしょ?」
「そうよ。男性だもの。多少は大目に見てあげるべきよ……」

「いいから殺(や)って」
「「はい」」
「ぎぎゃああああお助けー」

 戦闘態勢に入ったヨハンとゼッカの前に、ダークエルフたちが立ちはだかる。

「お前たち、この里に人間の女は要らないよ。やっておしまい!」

 武装したダークエルフたちが立ちはだかる。ゼッカは二刀流で、そしてヨハンはお気に入りのスキル【ブラックフレイム】で応戦するが。

「……ふうむ」
「ちょっと、何してるんですかヨハンさん! 集中しないと」

 ヨハンはダークエルフたちを見ていて、思っていたことがある。顔。誰かに似ているなと。ダークエルフの顔は全て同じ。女王でさえ顔の造形は同じで、衣装が豪華になっただけという感じである。そのダークエルフたちの顔が誰かに似ていると思いながら戦っていると、ふと思い立つ。

『びえええええんんん哀川せんぱあああいいいいたずげでくだざいいいいいいいいいい』

「ああ、顔があの子に似てるのね!」
「え、似ている? ヨハンさん? 今日一番の楽しそうな声で、いったいどうしたんですか?」
「ねぇゼッカちゃん。ダークエルフと戦うの、私に任せてくれないかしら?」
「い、いいですけど……え、なんか怖いですよヨハンさん」

 ヨハンは一歩前に出る。ダークエルフたちは女王を守るように陣形を組むと、手に持った杖をこちらに向けてきた。そして、一斉に魔法を放つ。

「――呪縛の呪文!!」
「――呪縛の呪文!!」
「――呪縛の呪文!!」

 行動を封じる状態異常を付与する闇魔法が放たれる。だが、その呪文はヨハンに命中したかと思うと、跳ね返り、呪文を打ったダークエルフに命中する。状態異常魔法を跳ね返すスキル、バスタービートルの【ビートルアーマー】が発動したのだ。

「がっ……ああああ」

 大勢のダークエルフたちがその場で動けなくなる。その様子を楽しそうに眺めていたヨハンは右腕からエクスキャリバーを出現させると、一体一体、真っ二つに切断していく。
 切られたダークエルフたちは粒子となって消滅する。

「あは……このゲームたーのしー!!」

 ヨハンは笑った。一週間ため込んでいた|社会人の闇(ストレス)が解放されてしまった。こうなっては誰にも止められない。

「くっ……調子に乗るなっ!!」

 呪文が解けると、今度は素手で襲いかかってくるダークエルフたち。ヨハンはエクスキャリバーを解除し、【闘魂・極】を発動させると、向かい来るダークエルフたちを一体一体殴り飛ばしていく。【闘魂・極】によって倍加し、1000以上の筋力となったヨハンの打撃は、ダークエルフの肉体を一撃で粒子に分解する。

「くそー破れかぶれだー!!」

 掴みかかってくる最後のダークエルフの攻撃をひらりと避けると、左手で相手の首を押さえ、右手で頭部を鷲掴みにする。

「つーかまーえたー」

そして頭部を引っこ抜く。

「ふふ……魚みたいねぇ」

 背骨ごと引き抜かれた首は瞬く間に血のようなダメージエフェクトと共に消滅する。

「このダークエルフの女王と戦おうというのか? 愚かな」

 残るのは女王のみ。モンスターキャラクター故に女王はヨハンを恐れることは無い。女王は過度な装飾の施された杖を構えると、部下と全く同じ「呪縛の呪文」を放ってくる。
 当然それは跳ね返され、女王は自分自身が動けない状態となってしまう。ヨハンはそんな女王の髪を引っ張ったり、鼻を摘まんだりしながら遊ぶ。

「くっ……殺せ……」
「あらごめんなさい。貴方の顔が知り合いにそっくりなものだから……つい」

 ヨハンは名残惜しそうに女王の顔を撫でると、少し距離を取る。

『びえええええええゴキブリいいいいい哀川さああああん助けてええくだざいいいいいいいぎ』

 何故だろうかそんな昔の出来事が思い出されたので、トドメに使うスキルは決まった。

「――【バグ】!!」

 ヨハンの鎧の隙間から、小さな虫がわらわらと湧き出して、それぞれがバラバラの軌道を描きながらも、女王へと向かっていく。そして女王の足下から這い上がり、大量のメスカブトムシに似た虫が、全身をカサカサと動き回る。
 女王の苦悶の表情を楽しんでから、翳していた手を握りしめる。それが起爆のキーとなり、全ての虫たちは爆発。ダークエルフの女王は消滅した。

「あー楽しかったー! 凄いストレス発散になったわ!」

 本人も知らない間に溜めていたであろうストレスを爆発させきったヨハンは、まるで少女のような綺麗な瞳をしていたという。鎧で全く見えないけれど。

「よ、ヨハンさーん。終わったらこっちも手伝ってください~」

 振り返ると、そこではもう一つの戦いが行われていた。
 彼氏の胸ぐらをつまみ上げ、顔を袋叩きにする彼女。その横で、彼氏にヒールをかけ続ける涙目のゼッカ。

「ゼッカさん、ヒールを。彼氏が死んじゃうので」
「えっと……死にそうなのはカロンさんのせいで……」
「早くしてくださいます?」
「……はい」

「ふむ、これが本当のダークエルフ(の里)の拷問ね」
「いや、訳わかんないこと言ってないで、彼女さんを止めてください」

***

 その後、彼氏だったものを血祭に上げたカロンは、
「ちょっとこの後、アレの家に行ってきます。色々と相談があるので。本当にお世話になりました」
と言ってログアウトしていった。

「さて、それじゃあ今回のこの【ダークエルフの拷問】というイベントについて、まとめようかと思います」

 ようやく身体の震えが止まったゼッカが、これまでの事実を踏まえ、この謎のイベントを総括した。

「完全に運営のおふざけですね」
「まぁそうよね」

「……でも、ゼッカが聞いた経験者の話ってのは……?」
「あーあれ、ロランドって人から聞いた話なんですよ」
「あーあのナンパな人ね」
「ええ。過酷だとか女には耐えられないと触れ回って、女の人が行かないようにしてたんでしょう。女の人が行ったら、なんだこれってクレーム入れますからね」

「まぁ子供もやってるゲームなわけだし、当然よね」
「うん……教育上よくないよね」

 案の定、このイベントに参加した女性プレイヤーたちは激怒。当然まともな感性を持つ男性プレイヤーも異議を唱えたのだろう。そうしてこのイベントは削除される運びとなった。

「で、クリア条件はあの状態を振り切ってダークエルフたちを全滅させる。するとこの【愛のピアス】というアイテムが手に入るんです。【あらゆる魅了状態の無効】という強力な効果を持ってますね」
「ちなみにロランドさんはクリアしたのかしら?」
「してないと思われます」
「さすがね」

 この【愛のピアス】はゼッカかレンマが持つのがいいだろうということで落ち着いた。

「……ねぇ、こっちにもアイテムが落ちてるよ」
「あ、本当だ。多分女王以外の雑魚ダークエルフがドロップしたんですね」

「あら……これ召喚石だわ……しかもダークエルフの……嬉しい」

兜の奥のヨハンの口角が上がる。

「……これを使えばダークエルフが召喚できるんだね」
「うわー男の前じゃ使えないですね……私、こういう無駄に胸がデカいキャラクターって嫌いで……ヨハンさん? どうしたんですかそんなに笑って?」

 クスクスと笑っているヨハンに、ゼッカが恐る恐る問いかける。

「いえ、このダークエルフの顔がね、知り合いにそっくりでそっくりで、面白くて」
「へぇそうですか、知り合いにそっくり……あれ、でもさっき凄い残酷な方法でダークエルフたちを殺して魔王みたいに笑ってたじゃ……むぐ」

 それ以上言っちゃいけないと、レンマに口を塞がれるゼッカ。

 ヨハンはダークエルフの召喚石を大切そうに撫でながら、呟く。

「……ずっと仲良くしましょうね」

その時の仮面の奥のヨハンの表情は、誰も知らない。

***
 ストレスは解放されたので、次からは優しくて可愛いヨハンさんに戻ります。

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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