お前のような初心者がいるか!

第16話 中級バチモン大暴れ

「これで良し……と」

 ヨハンは操作していたメニュー画面を閉じると、軽く伸びをした。

「……どうしたの?」

 横でゴロゴロしていた着ぐるみゴリラが小さくか細い声で尋ねてくる。アイドルスターズイベントで一時的にパーティを組んだ美少女、レンマである。あの後フレンド登録をしたのだが、妙に懐かれてしまったようだ。
 仕事を終えてヨハンがログインすると、決まってメッセージを送ってきて、合流し、一緒に遊んでいる。あの時、可愛らしい素顔を見せてくれたレンマだったが、今は再びゴリラの着ぐるみで全身を包んでいる。

(可愛いのに……勿体ないわね)

 と素顔が見えないことを嘆きつつも、ヨハンはレンマの質問に答えた。

「中級バチモンのスキルが解放できたのよ」
「……おめでとう。良かったね」

 喜んでくれるレンマに「ありがとう」と応え、ヨハンは一つの提案をした。

「レンマちゃん、二人で一緒にイベントエリアに行かない?」
「……イベントエリア? アイドルスターズの?」
「そう。中級召喚獣のスキルが三つ使えるようになったから、試してみたいのよ」

 大量の雑魚が湧く場所というのは限られており、そういった場所は大抵大手ギルドが占有している。そういう意味で、自分たちしか入れないイベントエリアというのは貴重だった。

「……わかった。でも、ゼッカは今日来ないよ? ……ちょっと言えない予定があるって」
「言えない予定ねぇ……もしかして彼氏かしら?」
「……かっ、かかかかかれち!? ゼッカ……意外と大人……なんだ///」

 彼氏という言葉に顔を真っ赤にするレンマ。夜に彼氏と出かけているという情報から、いったいどこまでの展開を妄想しているのだろうか。

 ちなみにゼッカは家族で食事に出かけているだけであり、付き合っている彼氏もいない。絶佳も女子高生。ちょっと見栄張って、含みを持たせたのだろう。あるいは年下のレンマに、少し大人ぶりたかったのかもしれない。

「まぁ、今日は二人で楽しみましょうよ」

 ヨハンはこの前の戦闘を思い出し、今の戦力なら二人でも行けるでしょうと結論づける。もし仮に失敗しても、それまでに集めたサイリウムは獲得できるので、無駄にはならない。

「……お姉ちゃんがそう言うなら。行く」

 レンマは初日で目的のアイテムを入手したのでもうイベントをやる意味は無いのだが、それでも快くOKしてくれた。対するヨハンと言えば、念願の中級バチモンたちのスキルを解放したものの、まだ一体ずつしか解放していない。欲を言えば、残りのメテオバード4体、ソードエンジェル2体もスキルを解放しておきたいところだった。

「それじゃあ行きましょうか!」
「……おー!!」

 レンマの可愛らしいかけ声に頬を緩めながら、ヨハンは再びイベントエリアへと移動した。

***

 アイドルの曲が始まると、前回と同じように応援姿のゴブリンが侵攻してくる。

「……ボクは守ってるだけでいいの?」
「ええ、そこで格好良いバチモンたちを見てて頂戴」

 ヨハンは玩具型の召喚石を取り出すと、それを起動する。

「召喚獣召喚! ――【バスタービートル】!!」

 幾何学的な魔法陣から、上下二本の角を持つヘラクレスオオカブト型のバチモン、バスタービートルが姿を表す。
 バスタービートルが最初から覚えていたスキルは【ビートルアーマー】。敵から放たれた状態異常を与える魔法を反射するスキルである。そして、ヨハンが集めた素材によって解放された残り二つのスキルは、どちらも攻撃スキル。

「さぁ、苦労して解放したスキル、じゃんじゃん使うわよ! バスタービートル、【バグ】!!」
「ビジジィィイイ」

 バスタービートルの甲殻の隙間から、無数の小さな虫が湧き出して、敵に向かってわらわらと向かっていく。メスのカブトムシに見えるその虫たちは小さいとは言っても、それはバスタービートルと比べた場合の話で、ルンバくらいの大きさはある。その虫たちはゴキのような機動力でゴブリンたちに這い寄り、攻撃をかわして身体にまとわりつく。そして。

 どごおおおおおんん!

 そのまま爆発した。巻き込まれたゴブリンたちは粉々に吹き飛ぶと、サイリウムをまき散らしながら消滅した。

「どう? どうレンマちゃん! 格好良いでしょ? あれ私のモンスターなのよ!」

 ハイテンションでレンマを振り返るヨハンだったが、彼女の着ぐるみゴリラは青い顔をしていた。どうやらレンマは虫が苦手だったようである。

「……うん、格好良……うぷっ」
「無理しないでレンマちゃん、虫苦手なのね!」

(レンマちゃんの前ではバグは封印ね。MP消費も少なくて良い技なんだけど)

 ヨハンは気を取り直して、次のスキル発動の指示を出す。

「ビジィ……ビジジィイイイイ!!」

 バスタービートルの頭部と胸部から生えている二本の巨大な角の間に、ビリビリとエネルギーが溜まっていく。そしてあふれ出んばかりのエネルギーを二本の角で収束させ、ゴブリンの一団に向かって解き放つ。

「――【テラーズブラスター】!!」

 放たれたのは超強力な無属性攻撃。ビームと言って良いだろう強力な攻撃はゴブリンたちを一瞬で粒子に分解し、消し去った。

「……凄い破壊力」
「でしょ? でも、ちょっと強すぎるわね。右側の観客席が消滅してしまったわ」

 消滅した観客席のあたりから、なだれ込むようにゴブリンたちが押し寄せる。そして、法被を着た足の速いコボルトたちも参戦。フィールドは混沌としてきた。

 対するバスタービートルは、大技を撃ったにもかかわらず、まだ戦えるとばかりに雄叫びを上げている。ブラックフレイム一発で消えてしまう初級のヒナドラとの格の違いを見せつけているようだ。

「MPはまだ残ってるけど……今日はもういいわ、お疲れ様」

 ヨハンはバスタービートルの召喚を解除すると、新しい召喚石を取り出す。あくまで今回の目的は、新しいスキルの実験なのだろう。

「召喚獣召喚――【ソードエンジェル】!!」

 続けてヨハンが召喚したのはソードエンジェル。鍛え抜かれた天使がビームウィングやビームシールド、ビームマスクなど近未来的な装備を纏っている。その姿は神々しくもあり、また歴戦の戦士のようでもあった。

「……お姉ちゃん。ちょっと敵の数が多すぎる。これじゃ守り切れないかも」

 アイドルの護衛を引き受けているレンマから声が上がる。だが、ヨハンは全く心配していなかった。

「心配しないでレンマちゃん。ソードエンジェル……いきなり大技行くわよ!」
「了解した、我が主(あるじ)。はぁああああああああ!」イケボ

 と、いきなりイイ声でしゃべり出したソードエンジェルは、天に両手を掲げる。すると、空に巨大な門が現れる。
 黄金でできたその門は後光が差していて、悪しき魂を浄化するがごとき神々しさだった。その光景を、レンマは呆然と見上げていた。

「邪悪なる魂をこの世から消し去る。神の裁きを受けよ――【ゲート・オブ・ヘブンズ】!!」イケボ

 ソードエンジェルの声と共に、裁きの門が開かれる。そして、フィールド内のモンスターたちは次々とその身体を巻き上げられ、門の向こうへと吸い込まれて消えていく。

「……凄い。あの量の敵を一瞬で……ボク、ちょっと震えちゃったよ」
「思ったより凄い演出で、私も鳥肌が止まらないわ……」

 全ての敵を吸い込んだ門が消えていく。とんでもないチートに見えるが、ゲームとしての処理はスキル発動時に敵全体に即死判定を行い、即死が決定した相手に対して門に吸い込む演出が始まるといったものだ。だがその派手な演出は、十分に二人の心を打つ。

「……あれ、ソードエンジェルが」

 門が完全に消え去ると、ソードエンジェルもゆっくりと足下から、粒子となって消滅していく。

「この技、MPを全て消費してしまうのね。発動時に残っているMPの分だけ、即死の成功率が上がる……と」
「……強大な力にはリスク……だね」

「大丈夫だ我が主よ。きっと、私たちはまた会える。貴方が、望むなら」イケボ

 消えゆくソードエンジェルはアニメの台詞を良い声で言いながら、消滅していった。

「凄いわ。名シーンの名台詞も言ってくれるのね」

 バーチャルモンスターズファンの間でも屈指の名シーン、ソードエンジェル、命がけの大技発動! の再現度の高さに満足し、目に涙を浮かべるヨハン。

「子供の時泣いたなぁあのシーン。ま、今見ても泣いちゃうんだけどね」
「……感動してるところ悪いけどお姉ちゃん。多分あのモンスター消滅するとき毎回あの台詞言うよ」
「え……?」
「……そういう前例があるの……ちょっと鬱陶しそうだよね」
「そ、そそ、そんなことないわよ。名言だから……感動の名シーンだから……毎回聞いたって、飽きたりなんかしないから」
「……力あるスキルには、リスクがある……」
「やめて。感動的な思い出のシーン(再現)をスキルのデメリット扱いしないで!」
「……わかったよお姉ちゃん。貴方が、望むならキリッ」
「やーめーてーイジらないでぇ」

 

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第17話 ヨハンの秘密と新スキル

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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