「メイちゃん。ちょっと付き合わない?」
会議終了後、メイに声を掛けてきたのはヨハンだった。
メイに元気がないことを心配していたのだ。
普段なら21時にはログアウトするメイだったが、今日は素直に従った。
今日はまだログアウトする気分ではなかったのだ。
二人がやってきたのは【破滅の古城】という朽ちた城。
第三層の数少ないダンジョンで、入る度に中の構造がランダムに生成されるかなり難易度の高いダンジョンになっている。
だが二人は別段攻略しようという熱意はなく、どちらかといえば適当にモンスターを倒しながら探索をしていた。
「ぐおおおおおおおお」
そして巨大な城壁を盾のように持つモンスター、ナイトメアシールダーと戦闘に入った。
HPゲージの量から見て、おそらく中ボスモンスターだろう。
「メイちゃん、そっちに敵の攻撃が行くわよ」
「はい。プレレフア――【幻蝶の舞】」
「ぷわー」
メイの召喚したプレレフアが手を天に掲げると、ナイトメアシールダーの足下から虹色の蝶の幻影が湧き上がる。
蝶のエフェクトが敵の周囲を被うと、攻撃は空振りに終わった。
「続けて【フラワー・オブ・ライフ】をヨハンさんに!」
「ぷわー」
「そして――【スライドサモン】! プレレフアを退却してワーフェンリルを召喚!」
「俺の出番か!」
「任せたよワーフェンリルくん――【グレイプニール】!」
「おうよ!」
メイのワーフェンリルのスキルにより現れた鎖がナイトメアシールダーを拘束する。
「ヨハンさん、今です」
「ええ任せて!」
バフの準備が終わったヨハンは必殺の構えを見せた。
それはまさにドラゴンのポーズ。
「行くわよ――【ジオサイドフォース】!」
ヨハンの手から放たれたクロノドラゴンの攻撃スキルはナイトメアシールダーの装甲を貫通。
一撃で撃破することに成功した。
「やったわねメイちゃん!」
「はい! ヨハンさんが一緒だと初見攻略も簡単ですね!」
二人でハイタッチして、戦利品の回収に移る。
「このボス専用のドロップアイテムは……【中級・壁の素材】だけですか」
「後は他でも手に入る【家具の素材】くらいねぇ……」
この破滅の古城ダンジョンで入手できるアイテムはすべてギルドホームを強化するための素材だった。
【中級・壁の素材】は敵からの侵攻を防ぐための壁も作れるし、単純に内装を変更するためのアイテムも作れる。
【家具の素材】は家具を作るための素材アイテムだ。
初めての使い道が殺し合い祭りだったために勘違いされがちだが、ギルドホームはエンドコンテンツ……所謂やり込み要素として追加されたシステムだ。
ギルドメンバーたちが協力して理想のギルドホームを作っていけるシステムなのだ。
但しそのために必要なアイテムは膨大な数になる。ヨハンたちのような元々完成された見た目をしたギルドホームを持つギルドにとっては優先順位の低い要素だった。
「でも……あの常に空を被う暗雲はなんとかしたいのよねぇ」
竜の雛のギルドホーム闇の城は常に暗雲に包まれている。さらに雷のおまけ付きだ。
ヨハンは前々からそれが気に入らなかったのだ。
「わかります! ギルドホームからみんなで星を見上げたいですよね!」
「わかってくれるのねメイちゃん……。そのための素材はまだ全然足りないけど、コツコツ頑張っていきましょう!」
「はい!」
二人はガシっと手を握り合う。
「よし、今日はもうちょっと先に進めるかなー」
「ふふ」
「はわ!? な、なんですかヨハンさん!? 私何か変なこと言っちゃいましたか!?」
「いえ、ごめんなさいねメイちゃん。いつも通りのメイちゃんに戻ったなって思って、安心したのよ」
「あ……」
見抜かれていた。
それに気付いたメイの顔が赤くなる。
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいのよ。寧ろ私と一緒に遊ぶのが気晴らしになってくれたならよかったわ」
「……」
「メイちゃん?」
再び沈むメイの表情を見て、ヨハンはおや? と思う。
学校で嫌なことでもあったのだろうと当たりをつけていたのだが、どうやら見当違いだったらしい。
ならば原因はこっち側だろう。
「何かあったの?」
「えっと……」
メイは言っていいのか悪いのかわからない顔をしている。
「話してくれないかしら? 私は気分を悪くしたりしないわ」
言いたいけど、言うことでこちらの気分を害してしまうのでは? そんなメイの信条を悟ったヨハンはそう言葉を投げかける。
やはり自分の思いを吐き出したかったのだろう、メイは少しほっとしたように口を開いた。
「怖い……んだと思います」
「怖い?」
「はい……変わるのが怖いです」
竜の雛に入ってからの一ヶ月。
それはメイにとっては初めての経験の連続だった。
個人でやる習い事ばかりしていたメイには、チームで勝利を目指すということも初めてだった。
大人と対等に何かをやることも初めてだった。
そして、自分がカッコいいと思った大人たちに大事な役割を任され、それを完遂できたことは大きな自信となった。
触れるもの全てが新鮮で楽しくてわくわくした。
何かをこなす度に自分自身が成長し、仲間たちの信頼を得られるのが楽しかった。
「どんどん竜の雛のことが、皆さんのことが好きになっていきました……」
「それは、嬉しいわね」
「でも、オウガやゼッカさんは……私ほど竜の雛が好きじゃないのかなって。二人ともライバルを倒すための足かけだったのかなって……寂しくなって。そんな風に思ってしまう自分が嫌で」
「うん」
「私だって追加で入ったメンバーなのに、新しい人たち入ってくるの不安だなとか思っちゃって……」
「うん」
「私怖いんです。子供だなって思ってたオウガもパンチョさんも、気付いたら私よりずっと先を見ていて……。変わっていくことを怖がらない。でも私は怖い。大好きな竜の雛が変わっちゃうのがとても怖い」
ヨハンは微笑みながらメイの頭を撫でた。
それは今が楽しくて楽しくてしょうがないからこその悩み。そして恐怖だからだ。
(竜の雛はメイちゃんにとって大切な場所になれたのね。でも)
変わらないものなんてないことをヨハンは知っている。
進学、卒業、就職、結婚。
人間を取り巻く環境は常に変わっていく。
名残惜しくはあるけれど。
それは止めることはできないのだ。
そして知ってほしいとも思う。
変わっていくこととは、怖いばかりではなく楽しいものなのだと。
(う~ん。何かメイちゃんを勇気づけられたら良いのだけれど……)
「あら?」
人生の先輩としてメイをどう勇気づけたらいいのか悩んでいると、部屋の隅の壁が崩れていることに気付く。
「ヨハンさん、壁の向こう側が光っていますよ」
「そのようね……」
壁に空いた小さな穴にメイが触れると、ゴゴゴと音を立てて壁が崩れる。
そして扉ほどの大きさになった穴の向こうにはガラスの板のような物が連なった階段になっていた。
薄ぼんやりと光るガラスの階段の向こうは強い光に包まれていた。
「破滅の古城とは明らかに違うテイストの階段ね」
「ですね。隠し部屋でしょうか?」
「メイちゃん、お金とかは預けてきた?」
ヨハンの質問にメイが元気よく頷く。
「はい! コンさんの言いつけどおり、必要最低限のアイテム以外は置いてきました!」
「なら安心ね。提案なんだけど、ちょっと二人で探検してみない?」
「いいですね! 行きましょう行きましょう!」
元気にはしゃぐメイの姿に安堵すると、ヨハンはメイを連れて、ガラスの階段を下っていった。
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第121話 最悪の再来
カクヨム - 「書ける、読める、伝えられる」新しいWeb小説サイト学園一のカッコいい系女子が僕の前でだけすごく可愛い(@KurujiTakioka) - カクヨムhttps://kakuyomu.jp ...
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