お前のような初心者がいるか!

第108話 九尾の狐

庭の中央に建つ氷の塔の上。

「ぐぬぬ……仲間に入りそびれた……」

ガルドモールとオウガの戦闘を単眼鏡で覗きながら、メイは唇を噛んだ。

 メイのところにクロスが飛んできたのは、つい先程のことだった。オウガの味方をしに来たから、自分たちは見逃してくれという提案だった。

 クロスが今までオウガにしてきた所業を思えば、到底受け入れることのできない提案だった。だが、オウガの友人であるゾーマやチームメイトのパンチョたちも共に来ていると聞いて、考えを改めた。クロスはともかく、彼らがオウガを嵌めるようなことはしないだろうし、そんな脳もないだろうとメイは考えたからだ。

そして、その時、メイ自身もそれどころではなかったのだ。クロスに構っている暇が無かったのだ。

超人がごとき身体能力で壁を駆け上り、ヘリを走っていくロランド。

物凄い火力で召喚獣を寄せ付けないカイ&グレイス。

そして……。

「あれがドナルドさんの言っていた【サモンライド】の使い手……? それにしては……」

見たこともない大きな怪物が、ブレイブマンモスの作った氷の壁をぶち抜いていく。

「とにかく、コンさんの加勢に行かなくちゃ! 私なんかでも、居ないよりはマシだよね」

自らを奮い立たせるように小さくガッツポーズすると、メイはソードエンジェルを召喚。

「呼びましたか。我が主よ」

「うん、呼んだよソードエンジェルくん。お城まで連れて行って」

「了解した。我が主よ」

近未来的な鎧に身を包んだ天使、ソードエンジェルに抱えられながら、メイは城の入り口を目指した。

***

***

***

「ぎゅるうううううん」

城の入り口付近。黒い炎に包まれたそこは、地獄の様相を呈していた。

コンの最強にして最大の切り札にして相棒、ユニーク召喚獣【九尾の狐】。

まだ召喚獣を召喚できるのが1体までという縛りがなかった時期の名残か、九尾を呼び出すには9体の【管狐】をコストにする必要があった。

コンは召喚師の仕様変更により、実質的に相棒である【九尾の狐】を使うことができなかったのである。だからこそ、それを打ち破る方法をずっと探してきた。

仲間たちが全員辞めた後も。

たった一人になっても。

そして、海賊王レイドにてその答えを得たのだ。

ヒナドラがトランスコードによって最強形態クロノドラゴンへアクセスできるようになったように。

管狐もトランスコードによって、九尾召喚への足がかりになるスキルを覚えた。

【多重影分身】。増殖よりも多い9体に分裂するスキルだが、増殖とは違い、増えた管狐は戦闘に参加できない。完全に九尾召喚用のスキルだが、コンはそれで良かった。

とにかく、また相棒と共に暴れられる。

「はぁはぁ……なんなのよアイツ」

最強ギルド【最果ての剣】のギルドマスターであるギルティアは、白い剣を持ったまま何もできずに居た。

白い剣の名は【オメガソード】。装備した者はあらゆる召喚獣からのダメージとスキル効果を受けなくなる。さらに内蔵されたスキル【オールデリート】を使えば召喚獣を問答無用で破壊することができる。
だが、オールデリート発動には隙がある。

その隙を、九尾の召喚者であるコンは的確についてくる。

それは彼女の兄であるロランド、そして精鋭のカイとグレイスが到着しても変わらなかった。

九尾の圧倒的な力は、最強ギルドのトップ勢すら、手も足も出せなかった。

「九尾……前に戦った時はここまで強くなかったぞ。どうなっている?」

「あの狐のスキルです。確か、やられた召喚獣の数だけ強くなるスキルを持っていたはず……」

「あらあら、覚えてはったん? 正解や」

九尾の頭に腰掛けたまま、コンが意地悪く笑った。

 九尾の狐はスキルを持っている。その名も【半魂術・憑依装着】。効果はフィールド上(この場合庭)で消滅した召喚獣の全てのステータス分の数値を、自身のステータスにプラスするというもの。

 カイたちによって、現在80体ほどの召喚獣が倒されている。それら全ての魂が九尾の狐に憑依し、ステータスを大幅に上昇させているのだ。最早、並のボスモンスター以上のステータスを持っているといっていいだろう。

「なるほど。ヤツのスキルはこのギルド防衛戦のシステムとマッチしているということか。考えたな」

「ええ。このシステムなら、通常の戦いより多くの召喚獣が倒れる。それが全て九尾の力になる……厄介ですよ」

言いつつも、ロランドの口角は上がっている。強敵と巡り会えた喜びが、隠せてなかった。

「私の攻撃はヤツにはまったく通用しない。グレイス、お前はどうだ?」

「僕もさっき最強の魔法【サンダーボルト】を当てたんだけどね。ダメ」

カイの質問にグレイスが半笑いで答える。

「つまり、勝利する為には妹のオメガソードに期待するしかないということか」

「そうどす。せいぜい頑張ってや」

コンはまたクスクス笑う。

「くっ……こんな時に限って、盾役のガルドモールが居ないとは……あの役立たずめ」

「フッ。彼なら大丈夫かと思い置いてきましたが、まさかオウガくんが勝つとはね。流石私の弟子だ」

「そんなことを言っている場合か! ん? 弟子? 弟子とはどういうことだロランド。貴様まさか敵に手ほどきを……」

「おっと……今はそんなことを言っている場合ではありません。敵の攻撃が来ますよ」

カイとロランドは九尾が放ったブレスを回避する。

「よぉし今の内に――オールデリきゃうん」

天に剣を掲げ、スキル発動の準備に入ったギルティアにすかさずコンからガンドが打ち込まれる。

「今だ! ファイヤーボール!!」

だが、その隙をグレイスは見逃さない。ギルティアを打ったコンを、今度はグレイスが魔法で攻撃する。しかし。

「当たらへんわ」

コンはそれを回避。

「うぇぇ……ロランドさん並の回避力……」

「くっ、何をしている妹! 早くスキルを使わんか!」

「やってるわよ! やってるけど邪魔されるのー」

「だったら隠れて使うとか、頭を使え」

「使ってるわよ。でもあの女ついてくるんだもん! そんなに言うんだったらカイくんがアタシの肉壁になりなさいよ」

「はっ? ゴメン被る」

「……ほう」

 カイとギルティアが言い争う中、ロランドはコンの立ち回りに注目した。ロランドも初めは九尾の圧倒的なステータスに脅威を感じていた。だが、次第に興味がコンに移り始めたのだ。

ロランドたちが九尾にダメージを与えられない以上、勝利条件はギルティアがオールデリートを発動すること。それしかないように思える。

だが、それ以外にもう一つ、九尾の召喚者であるコンを倒すという勝利条件がある。こちらの方が遙かに簡単だ。だが、コンの立ち回りと身のこなしによって、その難易度も格段に跳ね上がっている。

九尾の猛攻を回避しつつ、コンを仕留めるのは不可能だろう。

カイやギルティアが無意識に『【オールデリート】さえ使えれば勝てる』と思ってしまうほどに、コンに攻撃を当てることは至難だった。

さらに言えば、ギルティアが持つ無数のユニーク装備を上手く活用すれば九尾を倒すことも可能なはずだ。

だがギルティアの考えはそこに至らない。

それは彼女が馬鹿だからではなく、コンに誘導されているから。

彼女が節々で見せる『オールデリートさえ封じれば自分の勝ち』という態度のせいで、『オールデリートを使えれば勝てる』という風に意識を誘導されている。

彼女の仕草、立ち振る舞い、言動……その全てがこちらを不利にするための仕掛け。

彼女と戦えば戦うほど、彼女の術中に嵌まっていく。

(なんて恐ろしい女性だ……)

ロランドの体が震えた。

本来複数ルートあったはずの勝利条件は、いつの間にか一つに絞られてしまった。

今からロランドが何か提案したとして、カイやギルティアたちはそれに従わないだろう。

「いやオールデリートの方が手っ取り早い」と。

そして、オールデリートで九尾を倒せたとして。彼女の持つスキル【三大厄災】により、オールデリートは封じられる。やられたところで、ヨハンを間接的に援護することになるのだ。

(なるほど。あの時は全く本気ではなかったということか)

以前のタッグマッチを思い出し、苦笑いするロランド。そして、もっと昔のことを思い出す。まだ妹やその友人たちと、最強のギルドを目指していた頃のこと。

(これが元最強ギルド【決闘宿】サブギルドマスターの実力か。そういえば、我々はとうとう貴方たちに勝つことはできなかった)

面白いと笑う。

神に感謝をする。

もう自分より強いプレイヤーなんて残っていないのだと退屈していた。

だがヨハンと出会い期待し、追いかけてみれば、これほどの実力を持ったプレイヤーが、まだこのゲームに残っていてくれたのだ。

嬉しくない筈がなかった。自分の全能力を用いて、九尾とコンを攻略したい。

久々にゲーマー魂が震えた……だが次の瞬間。ロランドの興奮は、冷める。

「ぎゅるうううううん!?」

突如現れた白いモンスターが、腕の触手でもって九尾に絡みつくように接近する。

「振り払え九尾!!」

「ぎゅるうん……」

コンの指示を受けるも、九尾は動けない。

「あっはっはっはっは! 無駄ですよ無駄ですよ! クワガイガーの【放電】とクリスタルレオの【絶対零度】に加え、ハイドラプランツの【触手拘束】まで使っているのですから!」

現れた怪物――クリスターは高らかに笑う。多くの召喚獣をサモンライドしたのであろう。

 胴体など、ベースには天帝ゼルネシア。そして頭部はクロノドラゴンにクワガイガーの角、腕はハイドラプランツ、下半身はクリスタルレオ、そしてワーフェンリルの髪。他にも様々な召喚獣のパーツが合体している。

「くっ……九尾」

二種の状態異常と触手による締め付けで、九尾は身動きが取れない。悔しがるコンの様子を見て、クリスターは叫ぶ。

「ここは私にお任せを! 皆さんは城の中へ向かってください」

「助かった! 頼んだわよクリスターちゃん!」
「フッ。まさかヤツに助けられるとはな。どうしたロランド。行くぞ」
「……ええ」

ギルティア、カイ、ロランド、グレイスが城の中に潜入する。コンは、それを止めることは無かった。

***
***
***

守りのないロビーを抜けて、ロランドたちは闇の城の二階層へと到着する。

入り口と出口以外なにもないその部屋で、一人の男が待ち構えていた。

アイドル衣装に身を包んだ男は、スタンドマイクを手に、静かに口を開いた。

「よく来てくれました。次は私がお相手致しましょう」

ヨハン覚醒まであと2時間半。

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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