お前のような初心者がいるか!

第101話 私がここに来た理由

上位プレイヤー6人を相手に戦うのは、ヨハンとはいえ無謀だった。

タイムメイカーによって一時的に使用できるようになったスキルを駆使して頑張ってはみたものの、一人も倒すことができず、大きく時間を消費した。

「私は生まれてこの方、【じゃんけん】を知らないという人間を見たことがありません」

ボロボロになって立て膝をつくヨハンを前に、ロランドが口を開いた。

「何故これほど多くの人がじゃんけんを知っているのか。それはルールがとても簡単だからでしょう。グーチョキパーを覚え、それぞれの力関係を覚えるだけでいい。ですがもし、じゃんけんの手が100個あったら? 200個あったら? きっとこれだけ広く知られるゲームには、ならなかったはず」

言いながらヨハンを切りつけるロランド。そこで、ヨハンの20回目のガッツが発動。ヨハンは倒れ込む。

「ヨハンさん。貴方の敗因は、つまりそういうことです」

「……いや、全く意味がわからないわ!?」

よろめいたヨハンは、ロランドが言っている言葉の意味がよくわからなかった。

「はっ。つまりロランド。お前の言いたいことはこういうことだろう? この女には、無駄な機能が多すぎるのだと……さながら日本の電化製品がごとく、使うかどうかもわからないスキルが多すぎると」

カイの乱暴な発言に、ロランドは頷いた。

「ええ、そういうことです。ヨハンさん、貴方はこのゲームで誰よりも多くのスキルを持っている。だが、持っているだけで、使いこなせてはいないのでしょう。私が出した手にどんなスキルを出せば良いのか、その最善手を閃くまでにタイムロスがある。無限に近いスキルを持っているだけの貴方では、限られたスキルを極めた我々には絶対に勝てない」

そして、剣を振るおうとして、ギルティアがそれを止めた。

「待って待って、トドメはアタシが刺すわ! ――ファイナル……」

「――ファイヤーウォール!!」

ギルティアがトドメのスキルを放とうとした瞬間、ヨハンもスキルを発動する。タイムメイカーの力で、ダルクが使ったファイヤーウォールを発動させたのだ。

炎の壁を自身の回りに展開し、身を守る。

これで1分間は耐えられる。だがその火柱を見たカイは明らかに不快そうに顔を歪めた。

「つまらん……つまらんぞ貴様! 貴様は我らに敗北したのだ! さっきから逃げてばかりではないか! ただただ延命する雑魚など不快感の極みだ! 貴様も最強を目指すなら、その弱さをいい加減に認めて、潔く死ねぇ!」

そんな暴言を吐き捨てるカイを、ガルドモールとグレイスが宥める。

「僕も流石にしぶとすぎて嫌気がさしてきた。気持ちはわかるよ。けど」
「そうですぞカイ。相手プレイヤーへの暴言はいけませんぞ~」

「はっ。ロランドが再戦を望んでいると聞いていたからどれほどのプレイヤーかと思えば。ただスキルを大量に持っているだけの雑魚プレイヤーだったではないか」

そのカイの言葉に、ロランドが顔を曇らせる。「だったら最初から一人でやらせてくれよ」と、言いたそうだった。言わなかったが。

「まぁ、僕たち6人相手に頑張ったほうじゃない?」
「そうですぞ~何せ我々はランキング上位プレイヤー。我々に勝てる相手なんて我々しかおりませんぞ~」

「まったくカイくんたら、何怒ってるのよ。ユニークで調子に乗ってたヤツが研究されて雑魚扱いされるようになる……なんて、珍しい話じゃないのに」

他のギルドメンバーたちも、苛立つカイを窘める。

だがカイは、今日一日自分を楽しませるプレイヤーに出会えなかったためか、苛立ちながらロランドに剣の切っ先を向けた。

「いいや、これでは何のためにログインしたのかわからん。ロランド。イベントが終わったら私とデュエルをしろ」

「それは構いませんが……皆さん忘れていませんか? まだ彼女は死んでいませんよ」

「は? 何を言っている。後はトドメを刺すだけだろうが……この炎の壁が消えた時がヤツの最後。なぁ女?」

「ええ、そうね」

炎の壁が消え、中からヨハンが姿を現す。そのヨハンにトドメを刺そうと、カイが近づいた。

「ここまでよく戦ったと褒めてやろう。だが貴様の負けだ。どこぞでは最強プレイヤーなんて持て囃されていたようだが……残念だったな」

「はぁ……別に自分から最強を名乗ったことなんて、一回もないんだけど……それにね。目的は達したのよ」

「目的? ああ、仲間を逃がしたのだったな。あれは立派だったぞ」

「逃がした? ふふ、どうやら、貴方たちは何か勘違いをしているみたいね」

「勘違いだと?」

「誰が最強とか誰が一位とか。ふふ、そんなことに夢中になるなんてやっぱり若いのね。でも私はね、最強なんて最初から興味ないのよ。今日私がここに来た理由は、たった一つ。――シフトチェンジ」

「――は?」

【シフトチェンジ】。自分の召喚獣と自分の位置を交換するスキル。

ヨハンがそのスキルを発動させると、ヨハンの姿が消える。そして、剣を振りかぶったカイの前には、白い幽霊型のモンスター【ゴースト】が姿を現した。

「――っ!?」

 この時、全員が振り返り自身の背後を確認する。先ほどのファイヤーウォール中にこっそりゴーストを召喚し、透明化させて背後に配置することで不意打ちする機会を窺っていたのだと思ったからだ。

だが、ヨハンは誰の後ろにも居なかった。それどころか、庭のどこにも居なかった。存在していなかったのだ。

「馬鹿な……ではヤツはどこに!?」

そして次の瞬間。最果ての剣のメンバー全員にメッセージが届く。

『ギルドクリスタルが破壊されました。これより全てのポイントが半分になります』

「はっ?」
「なっ!?」
「ええ……!?」

この場に居た6人全員が驚いた。そして、ギルティアの元に、ギルドメンバーの少女たちから音声メッセージが届く。その声は酷く慌てていて、涙混じりだった。

「す、すみませんギルドマスター~」
「クリスタルを守れませんでしたっ」

「お、落ち着いて……一体何があったの!?」

王座の間で護衛をしていた彼女たちが言うには、先ほど、クリスタルの前に突如ヨハンが現れたらしい。そしてそのままクリスタルを蹴り、破壊したのだという。

その後、ボロボロのヨハンをなんとか倒したらしいが。

「ヤツはどうやってギルドクリスタルの前に……?」

「そりゃ、ゴーストを透明化させてギルドクリスタル前まで移動させてから、シフトチェンジで位置を入れ替えたんでしょ?」

「問題はどうやってそんなに早くゴーストを城の奥まで移動させたのか、ということです」

「僕たちが散々邪魔してたんだ。ゴーストを召喚するチャンスは、ファイヤーウォールの中に隠れていた時にしかなかった。ファイヤーウォール中にゴーストを召喚。透明化させ、ファイヤーウォールが解除されると同時にゴーストを城の中へ移動。そこからシフトチェンジで……」

「無理ですね」

グレイスの推理を、クリスターが否定した。

「ファイヤーウォールが解除されてからヨハンがシフトチェンジを使うまで、1分もありませんでした。ゴーストはそこまで移動が早くないので、その時間で城の奥のギルドクリスタル前まで移動するのは不可能です」

「だったら何だ? ヤツがチートを使っているとでも言うのか?」

「普通にアタシたちと戦っている間に召喚したんじゃないの? こっそりと」

「そ、そんなことは無理ですよ。召喚師の私が断言します。ヨハンは私たちとの戦闘中、一回も召喚を行っていませんし、行う素振りも見せていませんでした」

「ではどうやって……」

目の前で起こった出来事があまりにも不可解すぎて、一同は軽い恐怖に包まれる。さっきまで戦っていたプレイヤーが、何か得体の知れない、とんでもない怪物のような気がして、寒気がしてくる。

そして、ずっと黙っていたロランドが、何か思いついたように口を開いた。

「ふむ。やはりゴーストを召喚したのはファイヤーウォール中で間違いないでしょう」

「お、お兄ちゃん話聞いてた?」

「ファイヤーウォール中の召喚では時間のつじつまが合わないと、そう話していたんですが」

「いえ私が言っているのは、ダルクくんが発動した1度目のファイヤーウォールでの話ですよ。あの時ゴーストを呼び出したのでしょう。あれから大体30分程度。時間のつじつまは合います」

「でも、ファイヤーウォールが解けた後、逃げるためにメテオバードを召喚しようとして……まさかあれ……ブラフ!?」

「ええ、おそらくは。ヨハンさんには、確信があったのでしょう。彼女は撤退する仲間に言っていました。『ギルドホームの守りを固めておいて』と」

クリスターはハッとした。

クリスターはあの言葉に何の意味も感じていなかった。だがあの時点で、ヨハンの狙いが自分たちのクリスタルの破壊だったのだとしたら、全て繋がるのだ。

「ギルドクリスタルを破壊された最果ての剣が逆襲で攻めてきてもいいように……それで守りを固めろと?」

「おそらくは。そして、二日目の残り時間は1時間半。今から攻めに行っても、ギルドクリスタル破壊までは無理でしょう」

ここから移動や城での戦いを含めても、クリスタル前まで到達するには時間が足りないというのが、ロランドの考えだ。

「はぁ、嘘だろ……あの女、まさかそこまで読んで?」

グレイスは得体の知れない恐怖を感じる。

「はっ。上等じゃない」

だが、ギルティアは逆に、闘志に火がついたようだった。拳を握りしめ、叫ぶ。

「流石ゼッカが認めた女。いいわ、面白いわ。明日……イベント最終日。私たち最果ての剣は、ギルド【竜の雛】を全力で叩き潰す! そうと決まれば、みんな、会議室で作戦会議よ」

「おっ、いいですな~」
「ゼッカか懐かしいな。元気かな」
「あ、私は庭に残って防衛します」
「ふははは、あの女ただの臆病者かと思ったが、なかなかどうして面白いではなないか!」

「……」

メンバーたちが城の中へ入っていくのを見送ってから、ロランドはホッと息をついた。

「私の責任にならなくて良かった」

本来の配置通り中に居れば、ワンチャンクリスタルの破壊を防げたかもしれないが、その責任を追及されると辛いので敢えて黙っていたロランド。

そして、先ほどの攻防を思い出し、一人笑みを浮かべる。

「このイベントが終わったら引退しようかと思っていましたが……まさかこのタイミングで再び挑戦者になれるとは……明日が楽しみだ」

自分より格上に挑戦できる。

久しく忘れていた気持ちを思い出し、ロランドは胸を熱くするのだった。


そして二日目は終わりを迎え、順位が発表された。

1位【神聖エリュシオン教団】1004Pt

2位【竜の雛】850Pt

3位【最果ての剣】725Pt

クリスタル消滅

4位【セカンドステージ】570Pt

クリスタル消滅

5位【開眼Bows】470Pt

6位【みんなランサーズ】400Pt

クリスタル消滅

7位【GOO支援部】390Pt

クリスタル消滅

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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