お前のような初心者がいるか!

短編2

2022年11月6日

 複刻:コラボイベント・バーチャルモンスターズの開催から早くも一週間。GOOは異様な熱気に包まれていた。

 「最強なのでは?」と噂されるプレイヤーヨハンの持つユニーク装備【カオスアポカリプス】入手のチャンスということで、上を目指すプレイヤーたちが血眼になってイベントを周回しているのだ。

 現在の所持者であるヨハンが入手方法を公開したことも、この熱気の要因のひとつだろう。

 そしてイベント開始から一週間。

 原作再現のための方法が各種攻略系動画によって公開されたこともあり、あとは時間を多く使える者が勝者となるだろう……と予想が出回った頃。

 ヨハンは一週間ぶりに闇の城のミーティングルームにやってきた。

「あら……?」

 そこではぐったりとした様子のゼッカとギルティアが居た。ギルティアは入ってきたヨハンに気づくと「お邪魔してるわ」と一言。一方ヨハンを見つけたゼッカは目を輝かせる。

「ヨハンさん! なんだか久しぶりですね!」

「ええ、一週間ぶりね」

 イベント開始から、ヨハンは殆どの時間をバチモンイベントに費やしていたので、ゼッカと会うのは久しぶりであった。

「でも昨日はヨハンさんログインしてませんでしたよね? 体調不良じゃないかってみんなで心配してたんですよ?」
「全体掲示板でもちょっとした騒ぎになってたわね」

「え、私がバチモンコラボ中にログインしないだけでそんな騒ぎに!?」

 みんなからどう思われているのかそろそろはっきりさせた方がよいのだろうかと考えるヨハンに、ゼッカが尋ねた。

「それで、お体は大丈夫なんでしょうか?」

 瞳をうるうるとさせ心配そうに自分を見上げてくるゼッカを内心「はぁ……可愛いわ」と思いつつ、ヨハンは答える。

「大丈夫。健康そのものよ。昨日はちょっと、用事があって出かけていたのよ」

「用事……だと!?」
「ヨハンさんがバチモンより優先する用事……想像がつかない」

「そんなに驚くことかしら」

 驚くを通り越して驚愕するゼッカとギルティア。

「ちょっと美術館に出かけていたのよ」

「アンタが美術館? 独りで? ……ぐっ」

 驚いたギルティアにゼッカが「失礼だろうが」と肘打ちをする。だが、大して気を悪くした様子もなく、ヨハンは続ける。

「まぁ普段は行かないけれど……今回は特別なのよ。知らないかしら? 【石丸涼(いしまる りょう)】っていう画家なんだけど」

 美術館の一部を貸し切って、大々的に【石丸涼展】が開催されていたのだ。ヨハンの自宅からはかなり遠い場所だったので、昨日はログインできなかったという訳である。

「へぇ……あの若き天才画家のねぇ。結構有名どころじゃない」

 ギルティアは知っていたようで、隣のゼッカが驚いた。ゼッカは知らなかったようだが、画家の石丸涼といえばテレビを見ていれば偶に話題に上がる人物で、現在は海外を中心に活動する画家である。
 社会を痛烈に批判したような風刺アートで、世界中から高い評価を受けている。

「実は同級生でね。昔は結構仲良かったのよ?」

「ええ~?」

 ギルティアは疑わしそうな視線を向けるが、事実である。小学生の頃は、家も近く、よく遊んでいた。だがそこからは疎遠になり、同じ高校に進学したものの、その頃にはもう殆ど話すこともなくなっていたはずだ。

「何よそんなの。殆ど他人じゃない」
「アハハ。他人じゃないわよ」

 ギルティアの言葉にヨハンは苦笑いする。

 確かに小学校卒業以降はそんなに話すこともなかった。けれど、当時は確かに、親友と呼ぶにふさわしいくらい、仲が良かったのだ。

「それにね、ギルティアちゃん。私くらいの年齢になると、昔の同級生が頑張っていることに、物凄く力を貰えるものなのよ」

「ふぅん、そんなもんかしらね。で、その元友達とは会えたの?」
「まさか。本人は居なかったわよ」

 世界的に有名な芸術家だ。自分の作品の展覧会とはいえ、不在でもおかしくはないだろう。

「それに、会ってももう、私のことなんて覚えてないわ」

 ヨハンは寂しそうに笑いながら、そう言った。かつての友人が成功していることを喜ぶと同時に、どこか物悲しげなその表情に、ゼッカとギルティアは息を呑んだ。

 世界を飛び回り、一枚数百~数千万円という絵を何枚も、何枚も制作しているのだ。その人生の充実度で言えば、学生時代より今の方が数段上だろう。学生時代の連絡をとっていない友人の一人や二人、遙か記憶の彼方だろう。

 最後に話したのは一体いつだったか。ヨハンでさえ、思い出せないのだから。だがギルティアは続ける。

「でも会いたいんでしょ? 小学生の頃とはいえ、親友だったわけだし」

「えぇ……そりゃ会って話せたら嬉しいけれど。でも……向こうは忙しいし、立場もあるし……。もしかしたら結婚してて、子供もいるかもしれないし。やっぱり難しいんじゃないかしら?」

 苦笑いしながら答えるヨハン。それは、大人故の諦めだった。自分もそれなりに忙しい大人になったからこそ、相手に気を使い、会いたい気持ちを我慢する。

 それに、何故か怒ったような顔をするギルティア。

「何それ? 馬鹿みたい」

「馬鹿みたい……か」

 この子は手厳しいわね……と内心思う。

「それじゃアンタがかわいそうじゃない。本当に会いたいなら、相手に遠慮したらダメよ!」

「え……」

「アタシは会いに行くわよ。友達が仕事してようと、結婚してようと、子育てしてようと……たとえ海外に居ようと」

 ギルティアは力強く言った。

「会いたくなったら、会いに行くわよ」

「……っ」

 ギルティアの言っていることは子供だからこそ言えることだった。明るい未来が転がっている子供だからこそ言えること。とても幼稚で、世間知らずな言葉だった。それを理解しつつも。いや、だからこそ。真っ直ぐな子供の言葉だからこそ、ヨハンの心に刺さる。

「ふん。アタシはゼッカが結婚しても子供が生まれても、会いたくなったら会いに行くからね~」
「迷惑だよ」
「そんなあ!?」
「ヨハンさん、コイツの言うことは動物の鳴き声とでも思ってくださいね。気にしてたら持たないですから」

「フフ……」

「な、何がおかしいのよ!」

 小さく笑ったヨハンに、涙目のギルティアがくってかかる。そんなギルティアを軽くいなしつつ、ヨハンは遠い過去の友人のことを思う。

(いつか海外に行くのも、いいかもしれないわね)

***

***

***

「ところで、二人は何を項垂れていたのかしら?」

 話題が切り替わる。ゼッカは冷や汗をかきながら、目を泳がせる。

「ぶっちゃけバチモンイベントの周回に飽きてきたのよね」
「ぐはぁ」

 ゼッカがどうしたものかと思っているうちに、ギルティアが答えた。彼女の発言にダメージを受けたヨハンだったが、肩で息をしつつも立ち上がる。

「で、でも、今回はクエストクリアでポイントが貰えて、ポイントと引き換えに素材が貰える要素が追加されたし」

「はっ。トップギルドだったアタシが今さら交換素材なんて欲するとでも?」

「う……で、でも。アニメバチモンの名勝負を追体験できるわけで……それだけでもかなり凄い体験で」

「ストーリーがいいのは認めるけど。っていうかアタシも最初は泣いたけど。何回も見てたら流石に飽きるわ」

「飽きないわよっ!!」

「逆ギレ!?」

「よ、ヨハンさん、落ち着いてください」

「そ、そうね。少し冷静さを欠いていたわ」

 ヨハンは大きく深呼吸をする。

 今、GOOでバチモンコラボイベントを遊んでいるユーザーの殆どが、カオスアポカリプスの入手を目的としている。だが、ゼッカとギルティアは違う。

 殺し合い祭り後に追加された新機能、その名も【ペット】機能。

 戦闘には一切参加できないが、召喚師以外でも小型のペット専用モンスターを連れ歩ける機能である。今回のイベントのポイントによる交換景品の中に、バーチャルモンスターズから【プチドラ】と【プチコロ】が追加されたのだ。

 このプチドラとプチコロがペット専用モンスターの第一号となる。

「ストーリーは飽きたけど、ゼッカとアタシで一体ずつ、必ずこのモンスターを手に入れてやるわ」
「うん。それは絶対」

 今回の複刻バチモンコラボにおけるゼッカとギルティアの狙いは、この二体を入手することである。それは、もう一人の友人である【ミュウ】が動物好きだからである。

 二人でミュウに謝るにあたって、謝罪の気持ちとして、彼女が喜ぶであろうアイテムを入手したいというのが、二人の作戦だった。

(普通にさっさと謝った方がいいと思うけど)

 とヨハンは思うが、口出しはしない。

「おやお嬢さん方。周回に飽きてきた……という顔をしていますね」

 紳士のような声色が響く。煙条Pだった。普段のアイドル衣装ではなく、生産プレイ用の作業着に身を包んでいる。

「必要なポイントは集まりましたか?」

「まだ半分ってところね」
「先は長いです」

「そうですか。では、そんな貴方たちにこれを。プレゼントです」

 言うと、煙条Pはテーブルの上にとあるアイテムを置いた。バーチャルモンスターズのロゴが入った金色の腕輪だった。数は二つ。

「これは【バチモンリング】。装備しておけばイベント周回で手に入るポイント数が増加する装飾品です。友達のために頑張るお二人に、特別に」

 二人は喜んでリングを受け取る。

「ありがとうございます煙条P! これで効率が上がる!」
「いいの? アタシまで貰っちゃって?」

「ええ。ゼッカさんの友人ならば、私の友人も同じ。仲直りできるといいですね」

 にっこりと笑う煙条P。

「感謝するわ。本当にありがとう。ふふ、こうしてると、普通の人って感じね煙条P」

「いや……いつでも私は普通の人なのですが」

 困惑する煙条P。だがそれに同意する者は居なかった。

「すみませんヨハンさん。という訳で、貴方用のリングはもう少し後になってしまいます……」

 煙条Pはヨハンの方を向くと、申し訳なさそうに謝った。

「いいわよ別に。私はもうプチドラもプチコロもゲットしたから」

「はっ!?」

「ふふっ。今は二体目を狙って周回中よ」

「流石ヨハンさん!」

 Vサインをしながらドヤるヨハン。周回が【苦】どころか【幸せ】なヨハンにとって、今のGOOは天国のような場所である。

「あはは。やはり【好き】という気持ちは最強ですね。流石ヨハンさんだ。もうポイント増加のアイテムなんて必要ないのでは?」

 笑いながら冗談ぽく言う煙条P。だが、そんな煙条Pに、ヨハンはマジトーンで答える。

「絶対欲しい」
「わ、わかりました。なるべく早く仕上げますね」

「ふふ、楽しみにしているわ、煙条P」

 それからしばらく談笑した後、4人は周回、工房へとそれぞれ旅立っていった。

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短編3

 イベントの最終日の夜。  ここ二週間のゼッカとギルティアの頑張りの成果を見届けたヨハンは、とても幸せな気分で、闇の城の自室にて、くつろいでいた。 「良かったわね、ゼッカちゃん。頑張った甲斐があったわ ...

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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