お前のような初心者がいるか!

エンディング

「ふぅ……疲れた」

 イベント終了から5日後の金曜日の18時。哀川圭は自身のオフィスでため息をついた。

 丸一週間仕事を休んでいた分の勘を取り戻すのに苦労しここ数日残業続きだったが、なんとか定時で上がれそうである。

「あ、哀川先輩。帰るんですかー?」

 時計を眺めていると、隣の席の後輩が声をかけてきた。

 どうやらまだ仕事が終わっていないらしい。

「あら、まだ終わってないの? 手伝おうか?」

「いえ、嬉しいですけど……自分で頑張ってみます~」

「そ、そう。それじゃ、頑張ってね」

「お疲れさまですー。哀川先輩も、良い休日を」

 圭は帰り支度をしながら、一体部長はどんな魔法を使ったのだろうかと驚く。

 だが確かなことがある。

「あの子も少しだけ変われたのね。良かったわ」

 後輩の成長を自分のことのように喜ぶと、圭は自宅に向かう。

「今日は、久々にログインできそうね」

***

***

***

 イベント以来、久々にGOOに足を踏み入れたヨハンは、自らの本拠地である闇の城へとワープした。

 闇の城へ入ると、つい数日前のイベント後の打ち上げのことを思い出す。

 竜の雛メンバーはもちろん、頑張ってくれた召喚獣たち。オウガの友人たちやギルティア、そしてロランドも加えての大騒ぎだった。
 大人としては少しみっともないくらいの、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎだった。

「楽しかったな……」

 そう呟きながら階段を上る。外が何やら騒がしい気がしたが、いつも雷鳴が轟いている場所なので、無視することにした。

「あ、ヨハンさん来た!」
「……仕事終わり? お疲れ様だね、お姉ちゃん」
「久しぶりやねー」
「疲れたでしょ? ポテトがあるわよ☆」
「お疲れ様です」
「うっす。お疲れっす」
「わっ、わっ。全員揃うのはイベント以来ですね。嬉しいな」

「みんな、久しぶり。お疲れ様」

 ヨハンがたまり場、もといミーティングルームに入ると、既に他のメンバーが揃っていた。

 ヨハンが席に腰掛けると、すっとポテトが盛られた皿が目の前に置かれる。

 食べようかどうか迷っていると、何やら興奮した様子のゼッカが、前のめりで、もう少しでキスしてしまいそうな距離で話しかけてきた。

「大変です。大変なんですヨハンさん!」

「お、落ち着いてゼッカちゃん。顔が近いわ」

 興奮するゼッカを宥めようとするヨハン。

「魔王はん。そうやのうて、もっとムツゴロウさんみたいにやらんと」

「誰が動物ですか! いやそうではなくて、ヨハンさん。大変なんです」

「最初に戻ったわね」

「良いニュースと悪いニュース。どちらから聞きたいですか?」

 もったいぶって面倒な聞き方をしてくるゼッカ。だがヨハンは苛つくこともせず、少し「う~ん」と考えてから答えを出す。

「こういうのはどうせガッカリすると相場が決まっているから、良いニュースから聞きましょうか」

「はい、では良いニュースです。なんと【バーチャルモンスターズコラボイベント】の復刻が決定しました!」

「マジで!?」

 嬉しみのあまり、思わず口調が変わるヨハン。

「マジです!」

「何故だかわからないケド、『復刻して欲しいイベントアンケート』で一位になったらしいわよ☆」

 ドナルドの言葉に、ヨハンは嬉しそうに頷く。

「なるほど。みんなにバチモンの魅力が伝わったのね!」

「違うと思います」
「……それは違うよお姉ちゃん」
「そうやあらへん」
「ありえないわね☆」
「ないない」
「普通に考えて」
「ヨハンさんのせいだよね」

「ええ!?」

 皆に否定され涙目になるヨハン。

「まぁコラボ復刻は、第二弾のフラグとも言われてるくらいだしねぇ。普通に楽しんだらいいんじゃない☆」

「そうね。えっとそれで、悪いニュースというのは?」

 ヨハンが訪ねる。するとゼッカが答える。

「ええ。それが、復刻イベントでは、ユニーク装備も再入手可能なんです」

「え? ……ということは」

「ええ。二つ目のカオスアポカリプスを狙って、ヨハンさんから入手条件を聞き出そうと考えた不届き者が大勢、今城の外に集まっています」

 ヨハンはそれを聞いて、耳を澄ませてみる。すると、さっきまで雑音だと思っていたそれは人間の声だった。

「教えろ~」
「教えろ~」

「怖いわね」

「アホやな~召喚師以外が手に入れても、意味あらへんやろ」

 コンが呆れたように言う。

「……でも、今後他の職業でも召喚獣を扱えるようになる可能性もあるよ」

「なるほど。そんな可能性もある以上、狙ってみる価値はあるということですね」

「条件はかなり厳しいけど転職チケットもあるワケだし☆」

「まぁ、先のことは、誰にもわからないですからねぇ」

 そう。

 未来のことは誰にもわからない。

 数ヶ月前まで、こんな風に仲間に囲まれて笑っているなんて、想像もしていたかったように。

「まぁ、独り占めするつもりはないし。教えてあげてもいいんだけれど」

 ヨハンのその呟きに、皆が「えっ?」と固まる。

「なぁ魔王はん。ウチにだけ、特別に入手条件教えてくれへん?」

「ああーズルいですよコンさん! 私だって欲しいのに」

 メイが叫ぶ。

「ふふ、じゃあ私に勝てたら教えてあげる……というのはどうかしら?」

「上等やない。そろそろどっちが強いか決着つけようか」

「あわわ……コンさん落ち着いて」

「コンちゃんと決着をつけるのもいいけれど」

 言って、ヨハンはだんだん音量が上がってきた、外を睨む。

 そしてテラス口へと近づくと、勢いよく扉を開いた。

 騒音のする方を見てみると、門の外に多くのプレイヤーが集まっていた。

 ヨハンは大きく息を吸い込むと、大声で叫ぶ。

「この私に勝てたら、カオスアポカリプスの入手条件を教えてあげるわ!」

「「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」

 門が開かれ、100人以上のプレイヤーが一斉に押し寄せてくる。それに反応し、防衛用の召喚獣たちがつぎつぎと出現。

 戦争が始まった。

 あっという間に庭は、殺し合い祭の再演となった。

 そして、突発的な祭り開催を聞きつけた馬鹿プレイヤーたちが、続々と集まってきた。

「カオスアポカリプス……是非私のコレクションに加えたいわ!」

 黄金の鎧を来た少女、ゼッカの友人ギルティア。

「ほう……カオスアポカリプスの入手条件……それはどうでもいいですが。ヨハンさんと戦える数少ない機会。活かさせて頂く」

 最強のプレイヤーロランド。

「はっ。ロランドよ。貴様より先に、この私がヨハンを倒す!」

 永久二位のカイ。

「天才の頭脳を以てしても、カオスアポカリプスの入手条件はわからない。是非教えてもらいたいものだが……ここは君に加勢をするぞオウガ」

 天才少年クロス。

「おーいオウガ、狩りしようぜー」
「なんか人が大勢居るんですけどー!?」
「よくわからんが祭りだろ? 殺せ殺せーい!」

 オウガのクラスメイトたち。

「同士たちよ。もし聖女がカオスアポカリプスを入手し、【増殖】を使ったらどうなると思う?」
「て、天才か!?」
「聖女が増殖だとぉおお!?」
「あああ考えただけで……あああああああいい」
「一家に一人聖女おおおおお!!」
「全員本気装備を調えろ。今より聖戦を開始する」

 神聖エリュシオン教団の団員へんたいたち。

「お前らやめろおおおおお」(泣

 聖女くん。

「ホビーで遊ぼうと立ち寄ってみれば」
「何やら面白そうなことになっているな」
「フッ。飲み会を断った甲斐があるというもの」
「行くぞ同士たち。遊ぼうではないか」
「「「おう!」」」

 殺殺ホビー部のみなさん。

「おいおいおい」
「何度も言わせるなよ」
「「「ヨハンを倒すのは俺たちだ!!」」」

 そして打倒ヨハンの会メンバーたちも交えて。

 一瞬で闇の城は殺し合い祭の二次会会場と化した。

***

***

***


「――グランドクロス!!」
「ヘラクレスオオカブトの構え・報恩謝徳ほうおんしゃとく!!」

 迫り来る敵を蹴散らしながら、ヨハンとゼッカは背中合わせになる。

「うふふ」
「どうしたんですかヨハンさん。こんな時に……」

「楽しいなって思ったの。変かしら?」

「いえ、変じゃありません。私も、ヨハンさんと一緒にいられて、凄く楽しいです」

「ふふ、ありがとうゼッカちゃん。私も楽しいわ」

「本当ですか! あの……あの。私、ヨハンさんと出会えて、本当に良かった! ずっと、これからも……」
「ええ。これからもずっと一緒に、楽しく遊びましょうね」
「もっ!!」

 すると、頭上のヒナドラが短く鳴いた。自分も居るぞ! というアピールだろうか。

「あはは、ヒナドラが嫉妬してますよー」

「あらあら。ヒナドラも、ずっと一緒よ」

 ヨハンはゼッカとヒナドラの両方を抱きしめる。

 二人と出会えたから始まった。出会ってから始まった、全てに感謝するように。

「居たぞ、ヨハンだ!」
「囲め囲めー!」

 その時、新たな敵が現れる。

「くっ。よくも私のお楽しみを邪魔してくれましたね……ぶっ殺してやる」
「ええ、戦いはまだまだこれからよ。行きましょうゼッカちゃん、ヒナドラ」
「もっきゅー!」

 倒しても倒しても、次々と闇の城にやってくるプレイヤーたち。当然だ。イベントと違い、終わりはないのだから。彼らの気力が続く限り、何度でも現れる。

 どうやら、ヨハンとその仲間たちの楽しい戦いは、もうしばらく終わることはなさそうだった。

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瀧岡くるじ

台東区在住の社畜兼業作家。 小学生の頃にデジモン、遊戯王にハマり大きな影響を受ける。中学時代は非オタとして過ごしてきたが高2でラノベを知り今ではフィギュアに憑りつかれたオタク。 大学卒業後はサラリーマンとして生きてきたがコロナで仕事が暇になったのをきっかけに小説家になろうにて連載開始。 2021年にカドカワBOOKSより『お前のような初心者がいるか!』を出版し作家デビュー。 嫌いなものは会社と通勤。 更新情報や購入物を日々ツイッターで呟いております。

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